女性自身が勝手に水準を上げている? もちろんそういう側面もあるでしょう。親世代の有形無形のプレッシャーから、主婦同士の比較、あるいは自己納得のために、様々な方面から高水準家事に向かってしまう。本ではその背景についても書きました。

 

元からずぼらな私自身でさえそうですが、他の日本人女性も、海外に出て、水準が下がって楽になったという声は多いです。それはつまり、日本にいるとそれだけで「手をかけるべき」というプレッシャーがかかってくるということ。家族だったり、メディアだったり、保育園のような場所で言われることもあるし、時には街中を赤ちゃん連れで歩いているだけで「ちゃんと母乳で育ててるの?」と言われたりするんです。

日本の時短術はあくまで家で料理することをベースにしていますが、シンガポールでは平日の夕方にホーカー(屋台)で食べたり、デリバリーサービスも身近なので活用したりしている家庭も多いです。そもそも多様な文化背景の子どもがいる幼稚園や学校では遠足のお弁当が菓子パンだけ(!)という子もいて、多種多様。なので子どもも「自分は自分、人は人」と受け止めやすい環境だと思います。

日本は均質性が高い社会で、企業内でも、主婦コミュニティ内でも、同調圧力が高まりやすい構造にはあると思います。日本の小学校に通っている親たちに話を聞いていると、学区により、子どもが「友達がやってるから」「私もやりたい」と習い事や中学受験を望みはじめ、親としてはそれに抗うのは難しい、自分のところだけできていないと罪悪感を覚えてしまうといいます。

それは経済的に余裕がある人たちのただの贅沢である、それで勝手にしんどくなっているのは果たして社会のせいなのか? こうした疑問はもっともだと思います。ただ、だからこういう人たちがしんどく感じないような社会にしていくべきだと言っているわけではありません。

私が言いたいのは、社会の方が実質的に変化しているのに、従来の専業主婦前提の家事レベルを求めるからしんどくなるのだ、ということです。日本が既にそういった構造になっているということ、また、今までだって伝統的に高水準の家事がされてきたわけではないことなど……。こうしたことを発信していくことも、しんどい人たちの肩の力を抜く一助になればと思っています。

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