これまで正社員と派遣社員には大きな賃金格差がありましたが、来年からその格差が縮小される可能性が高まってきました。同じ仕事に対しては同じ賃金を払うのが当然ですから、派遣社員にとっては朗報といってよいでしょう。しかしながら、一部の専門家からは企業が派遣コストの上昇を懸念して、派遣社員の受け入れを躊躇するのではないかと懸念する声も出ているようです。

 

今年4月に施行された働き方改革関連法には、「同一労働、同一賃金」が盛り込まれました。この施策が具体的に導入されるのは2020年4月からの予定です。

現在、派遣社員の賃金と正社員の賃金にはかなりの格差があり(一般的に日本の派遣社員の賃金は正社員の3分の2以下と言われています)、2020年からいきなり派遣社員の賃金を上げるというのは現実的に難しいと考えられます。このため厚労省は、派遣社員の派遣先での勤務経験が長いほど能力・経験値が上昇するという前提で賃金の目安を作成し、年数に応じた昇給を派遣会社に求めていく方針です。

同省が作成した目安では、1年経過すると賃金が約16%、2年後には27%、3年後には32%上昇します。例えば時給1123円のホームヘルパーは、1年後には1303円に、2年後には1425円に、3年後には1481円になります。時給が1179円だったデザイナーは1年後には1368円に、2年後には1496円に、3年後には1556円になるイメージです。

3年間、同じ派遣先で仕事を続ければ、正社員の水準にかなり近づくという仕組みですが、話はそう単純ではありません。人材派遣には3年ルールと呼ばれる仕組みがあり、3年間を超えて同じ組織で仕事することが原則としてできないからです。
 
3年以降も、派遣先で仕事を続けるためには、部や課などを移る、派遣先から直接雇用される、あるいは派遣会社で無期契約にするといった措置を講じる必要があります。派遣社員を受け入れている企業の経営に余裕があり、どうしても、その派遣社員に仕事を続けて欲しい場合には、直接雇用に移行できる可能性もありますが、そのようなケースばかりとは限りません。

企業の中には、コストが安いという理由で派遣社員を使うところもあり、こうした企業の場合、3年で一旦、契約をストップし、あらたに派遣社員を受け入れる可能性が高いでしょう。派遣社員の賃金が上昇した場合、派遣料金も高騰することになりますから、派遣社員の受け入れそのものを躊躇する企業も増えてくるかもしれません。せっかく昇給しても、なかなか次の仕事が見つからないという事態もあり得るわけです。

 
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