この春即位された天皇陛下と雅子さま。海外からの賓客をお迎えしたり、国内の催しにお出ましになったりと多忙な日々を過ごしていらっしゃいます。笑顔で国民に手を振られる、お二人の知的で清楚なたたずまいがすてきですね。

10月22日(火)には、天皇陛下が即位を内外に宣言する「即位礼正殿( せいでん)の儀」と即位パレードが行われます。天皇陛下と雅子さまは、皇居・宮殿から赤坂御所までの4.6キロメートルを、オープンカーに乗って国民の前に姿を現します。

 

1990年11月に行われた上皇さまと美智子さまのお代替わりのパレードの際には、沿道に 11 万 7000 人もの人々が集まりました。今回のパレードでも、きっと多くの人がお祝いに駆けつけるに違いありません。
上皇さまと美智子さまから受け継がれた知性とお人柄によって、天皇陛下はこれからますます国民に慕われていくことでしょう。

天皇陛下の母である美智子さまは、皇室のしきたりを改め、お子さまたちを
乳母に預けるのではなく、初めてご自分の手でお育てになりました。美智子
さまから、天皇陛下はお小さいころにどのような教育を受けられたのでしょ
う。
それは、本の読み聞かせを通して豊かな心を育んでいくというものでした。

ご静養先に向かう列車の中は、楽しい読み聞かせの時間

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ご静養のため、軽井沢へ。美智子さまが『ぐりとぐら』をたずさえていることがわかる。 (1964年9月)写真/講談社写真部

ここに一枚の写真があります。ご静養のために長野・軽井沢へご一家でお出かけになったときのご様子です。列車からホームに降りた上皇さまと美智子さまは、4 歳の浩宮さま( 今の天皇陛下) の手をお引きになっています。読み聞かせしていた絵本をしっかりと胸に抱いて… … 。
列車の中で、美智子さまの優しいお声に目を輝かせて聞き入る浩宮さまと、お二人を温かく見守る上皇さま。そんな楽しそうなご一家の様子が目に浮かびます。


美智子さまはとても本がお好きです。お忙しいご公務の間にも、日本のものはもちろん、海外の本にも目を通されていました。とりわけ本を通して、その国の神話や伝説をよくご存じでした。

皇室に入られた美智子さまが、たくさんの海外の国々と交流されるにあたって、お相手の国を知るためにまず読まれたのが、その国の神話だったといいます。
美智子さまは、なぜそれほど神話にご興味をお持ちになられたのでしょう。美智子さまの神話好きの原点は、子どものころにお父さまから渡された本にありました。

父から渡された日本の神話伝説の本


美智子さまが小学校に上がるころ、戦争が始まりました。戦火をさけて田舎に疎開した美智子さまに、あるとき、お父さまが本を持ってきてくれたそうです。物がなかった時代のこと、なかなか手に入らなかった本は貴重で、美智子さまは惜しみ惜しみ読んだといいます。
その中に、子どものために書かれた日本の神話の本がありました。それは古事記と日本書紀を子ども向けにまとめ直したものでした。


その本は美智子さまにとって、ほんとうによい贈り物でした。

美智子さまは、ご自分が子どもだったからか、民族の子どもの時代を描いたかのような神話の本を、とても面白く読まれたといいます。


「… … 今思うのですが、一国の神話や伝説は、正確な史実ではないかもしれませんが、不思議とその民族を象徴します。これに民話の世界を加えると、それぞれの国や地域の人々が、どのような自然観や生死感を持っていたか、何を尊び、何を恐れたか、どのような想像力を持っていたか等が、うっすらとですが感じられます」


1998年(平成10年)にインドで行われた国際児童図書評議会の基調講演で、美智子さまはこのようにおっしゃっています。


お子さまたちに読み聞かせた日本の神話『カミサマノオハナシ』


やがて美智子さまは、お子さまたちにも日本の神話伝説の本を読ませてあげたいと考えるようになりました。
上皇さまにご相談すると、『カミサマノオハナシ』という子ども向けの上下二巻の本をご紹介くださったのです。これは上皇さまがご幼少のころにお読みになっていたもので、弓を持っている子どもの神さまが表紙の美しい本でした。

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戦前に刊行された「カミサマノオハナシ」(ソノ一、ソノ二)。 昭和17年発行版。

「……お子様方がお小さかった頃、皇后さまはよくお子様方のために、ふじたみつ氏の書いた『カミサマのオハナシ』という子ども向けの全二巻の御本を読んでお上げになったと伺っている。これは、陛下がご幼少の頃、ご自身でお読みになっていらした御本で、皇后さまが、お子様方のために良い神話の御本がないかお尋ねになった時、陛下がお教えくださったものであった」

と、その時の様子が『皇后さまと子どもたち』(宮内庁侍従職監修、毎日新聞社) に書かれています。


当時、大阪で幼稚園を経営していた著者の藤田ミツさんは、『古事記』をやさしい言葉に直して園児たちに向けて語っており、それをまとめたのがこの本でした。幼稚園で使われただけあって、話しかけるような心地よいリズムや、読み聞かせている最中の子どもたちとのやり取りが目に浮かぶようなストーリー展開になっています。


何もないところから神さまが日本の国を作っていく神話物語の『古事記』には、「イザナギ・イザナミ』「天照大御神( あまてらすおおみかみ)」「スサノオノミコト」「いなばの白兎( しろうさぎ)」など、よく知られているお話がふんだんに盛り込まれています。


美智子さまにとって、本はときに子どもに安定の根を与え、ときにどこにでも飛んでいける翼を与えてくれるものでした。
とりわけ、お父さまが幼い美智子さまに渡した神話伝説の本は、民族の共通の祖先があることを教えたという意味で、心の中に一つの「根っこ」のようなものを与えてくれたといいます。
「……この本 (『古事記』と『日本書紀』を子ども向けにまとめ直した本のこと)は、日本の物語の原型ともいうべきものを私に示してくれました。やがてはその広大な裾野に、児童文学が生まれる力強い原型です。そしてこの原型との子供時代の出会いは、その後私が異国を知ろうとする時に、何よりまず、その国の物語を知りたいと思うきっかけを作ってくれました。わたしにとり、フィンランドはカレワラの国、アイルランドはオシーンやリヤの子どもたちの国、インドはラーマーヤナやジャーダカの国、メキシコはポポル・ブフの国です」( 国際児童図書評議会の基調講演より)
こんな楽しい国の物語を入り口にして、美智子さまはお相手の国に親しみを持たれたのです。

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『かみさまのおはなし』

今年、この『カミサマノオハナシ』が、80 年の時を経て『かみさまのおはなし』(講談社) となって復刻されました。
カタカナだった文章をひらがなに改め、旧作の味わいを残したイラストもふんだんに入って楽しい雰囲気はそのままです。
歌うようなリズムと昔の日本の美しくやさしい言葉づかいが心地よい……。そんな、本を読む楽しさを再認識させてくれる本になっています。

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本のあとがき部分には、美智子さまとお子さまたちが読まれた本のリストが掲載されています。
『ニゲタカメノコ』『赤ずきん』『ハイジ』『ジャングルブック』、『ホビットの冒険』『指輪物語』など、いつまでも心に残る名作に皇室のお子さまたちが親しまれたことがわかります。


きっと美智子さまは、これらの本を通して、子どもたちの心を豊かにし将来に向かって伸びていく力を育てたいと願われたのだと思います。


試し読みをぜひチェック!

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『かみさまのおはなし』
藤田 ミツ (原著) 渡邉 みどり (著) 高木 香織 (著) 講談社


平成の皇后・美智子さまが新天皇に読み聞かせをした、おさない子どもたちのための『古事記』を復刊。旧作のあじわいはそのままに、現代の仮名づかいで読みやすく!
巻末には、皇室ジャーナリストの渡邉みどり氏が皇室の読書教育について解説した「美智子さまと子どもたちの本棚」を掲載。
活字を通して世代から世代へと伝える「読み聞かせ」の力の大きさを、再発見させてくれる本です。