「非認知スキル」が教育格差を埋めるヒントに

 

ここから得られる結論として、理論上は、「SESが低くても高い成績を示している一群」に関して、その理由を探れば、教育格差や、そこから生じる負の連鎖を断ち切るヒントが得られるかもしれないということになる。
そこで浜野先生が着目したのが、前述した「非認知スキル」だった。まず、本調査では、

・「非認知スキル」は、子供の学力にゆるやかな相関があり、小六の方が中三よりも学力との相関がやや強い。
・一方、「非認知スキル」とSESの間には、あまり相関が見られない。
・こうしたことから、SESの高低にかかわらず(SESが相対的に低い場合でも)、「非認知スキル」を高めることができれば、学力を一定程度押し上げる可能性がある(ただし、今回の分析では両者の間にゆるやかな相関があることが確認できたにすぎないため、この可能性がどの程度確かなのかはさらなる検討を必要とすることに留意)。

といったことが解った。要するに、理論的には、困難な家庭環境に育ちながら、しかし成績が高い生徒たちが、どのような非認知スキルを持っているかを探れば、学力向上のための大きなヒントになるというわけだ。
 

 

コミュニケーション能力や成功体験が子どもの学力を伸ばす


そのことについても本調査では、ある程度の成果を上げている。先に掲げた困難を克服している生徒たちは、以下のような非認知スキルが高いことが解ってきた。

・ものごとを最後までやり遂げて、うれしかったことがある。
・難しいことでも、失敗を恐れないで挑戦している。
・自分には、よいところがあると思う。
・友達の前で自分の考えや意見を発表することは得意だ。
・友達と話し合うとき、友達の話や意見を最後まで聞くことができる。
・友達と話し合うとき、友達の考えを受け止めて、自分の考えを持つことができる。
・学級会などの話し合いの活動で、自分とは異なる意見や少数意見のよさを生かしたり、折り合いをつけたりして話し合い、意見をまとめている。
・学級みんなで協力して何かをやり遂げ、うれしかったことがある。

ただし、教育統計の常で、こういった非認知スキルと学力テストの成績の「相関性」は説明できても、因果関係は容易には説明できない。この点については、先に記した( )内の但し書きの部分に示される通り、浜野先生はたいへん慎重で、また謙虚である。

だが、コミュニケーション教育に長く関わってきた私たちには、たしかな実感があった。

いま、「非認知スキル」とともに、学校現場で流行語のようになっている言葉に、「学び合い」という単語がある。これは、上越教育大学の西川純教授が提唱し、ここ数年で全国に広まった実践活動だ。


(つづく)

※本連載は加筆再構成のうえ2020年3月に講談社より刊行予定です

前回記事「これから求められるのは「AIに解りやすいように喋る」能力ではないか」はこちら>>

 
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