米倉さんにとって積み重ねてきた経験について惜しみなくシェアしてくれる先輩であり、正解のないお芝居のことを相談できる存在でもある西田敏行さん。『ドクターX』シリーズを通して家族のような間柄になったというふたりの対談はハグからスタート、言葉の端々からお互いへの愛情と尊敬が伝わってきた。
西田敏行
俳優 1947 年11月4日生まれ。福島県郡山市出身。中学卒業後、上京、明大中野高校から明治大学進学。その後中退し、昭和45(1970)年劇団青年座入団。70 年『情痴』で初舞台。1971年舞台『写楽考』で初主演。以降、舞台、テレビ、映画など出演多数。
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“演じることが愛おしくなる” そのヒントをくれる人
西田 涼子ちゃんは心を開いた人にはフレンドリーで、スキンシップも欧米的。そういうところも含めて大好きなんです。でもその一方、人見知りで、深く考えて落ち込んでしまうところもある。そしてそれを吹っ切ってしまうと、ものすごいエネルギーを放つ人でもあります。葛藤して揺れ動いて爆発して、クリエイターとしては最高の性格なんですよね。
米倉 目の前でそんなことを言っていただいて、正直どうしていいのかわからなくなってます(笑)。
西田 いつも自分を高く評価しない人だからね。周りがどんなにすごいと言っても理想の水準が普通の人間のレベルとは違うから、それも含めてのプロフェッショナル。そういう気持ちを保ったまま浮き沈みの激しい芸能界でずっとトップランナーでいることの大変さは、同じ業界にいるから本当によくわかります。いつも、あんたは偉い!って伝えているんですけどね。
米倉 でも飲んでいるときは、冗談が多いですよね(笑)。私は30歳のときに亡くなった父親の声を、もう覚えていないんですよ。ビデオや録音も残念ながら残っていなくて。でも西田さんと(岸部)一徳さんの声の録音は、スマホのなかに5時間くらいあるんです。いい話をしているときは、「今からオンにしまーす!」って(笑)。
西田 一徳ちゃんも米倉涼子の大ファンで、涼子ちゃんのことを本当に大事に思っているんだよね。一徳ちゃんは父親的目線で、俺はどちらかというと親戚のおじさん。涼子ちゃんの存在が我々の人生のモチベーションになっています。
米倉 たぶん覚えていないと思うけど大河ドラマ『武蔵 MUSASHI』のときにサインをもらったくらい、私はもともと西田さんのファンだったんですよ。
西田 え~っ、本当に?
米倉 お芝居の相談をすると一徳さんは「そうね」って聞いてくれて、西田さんからアンサーが返ってくることが多いんですよね。「米倉涼子は、米倉涼子の芝居しかできない」と言われてしまうという話をしたときも、参考になることを言ってくれました。
西田 涼子ちゃんは周りに求められて女優になったから、自分というものを心にしまって別の人間にならなきゃ、というふうに奥ゆかしく考えているでしょ。でもどう演じても米倉涼子という人間性は、全部出るわけですよ。うまい具合にそこのバランスをとっていけば演じることがもっと楽しく、愛おしくなってくるよ、みたいなことは言ったことがありますね。
米倉 いつも新しいことを言ってくれます。私はよく動く方なんですけど、「動いているときでも"点"を大事にするといいよ」とか。
西田 涼子ちゃんは"動く" ことに関しての美意識を確立しているからすごいと思うな。タンゴの映像を見せてもらっても短い期間で美しい動きを身につけているし、スペイン語も覚えているし。俺も教育テレビを見て勉強したけど「de nada」しか覚えてないもん。
米倉 「どういたしまして」ですね(笑)。西田さんは今までの貴重な経験をまるで映画のように話してくれるから、一緒に過ごす時間が本当に楽しい。こういう家族のような関係は本当に貴重だと思っています。『ドクターX』で濃密な時間を過ごせたことに感謝ですね。
西田 僕は大門未知子って役が大好きで、オペのシーンが特に好きなんですよ。あの鋭い眼光は米倉涼子にしかできない。猛禽類の目だよね。狙われたら最後なのに狙われたい、連れていかれたい、って小鳥みたいな気持ちになる。
米倉 あははははは。
西田 手術室の大門未知子の目とチャーミングな仕草は、高視聴率の大きな要素だと思いますね。
米倉 お芝居を始めた頃に強すぎると言われた目を、ちょうどよく生かせた役が大門未知子なんです。だからそう言ってもらえるのはすごくうれしい。私はひとつの空間や時間を謳歌している西田さんのお芝居が大好きなんですよ。段取りじゃなくて、本当に"生きてる"って感じがするから。
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