【是枝裕和監督×宮﨑あおい対談】母娘の間の嘘。こうしたかった気持ちは「真実」

嘘をついたとしても、
本当はこうしたかったという気持ちは「真実」

「事実なんて面白くもなんともない」とうそぶき、私生活までも「演技」に満ちたファビエンヌ。仕事で「嘘」をつく女優というお仕事に就く宮﨑さん、そしてそんな女優の「真実」を描こうとした是枝監督。お二人にとって「真実」とはどんなものなのでしょうか？

宮﨑　女優って変わった職業だなとは思っています。でもずっとこのお仕事をしてきてしまっているので、一周回って、何とも思わなくなっているところもありますね。

是枝　なんかすごいね（笑）。この映画の取材では「真実」とは何かっていうことをよく聞かれるんだけれど、この物語での「演技」は、「真実」にたどり着くためのマジックとしてあるのかもしれない。ファビエンヌが自伝に書いた「リュミールを学校へ迎えに行った」という嘘と、リュミールがファビエンヌを喜ばせるために娘を使って一芝居打つこと、その両方ともが事実ではないけれど、本当はそうしたかった、その気持ち自体は「真実」なんだよね。

宮﨑　結局のところそれぞれに信じたいと思ったものが、「真実」のような気がします。でももし私が自伝を書くとしたら、周りの人に怒られないように、もうちょっとちゃんと書くかも（笑）。

是枝　確かにリュミールは母親が書いた自伝を「嘘だらけ」と怒っているけれど、まだ書かれていない娘自身の自伝の中にも、実は自分が気づいていない嘘があるんだよ。里帰りした本当の理由を酔っぱらった夫に指摘される、あの時に、そういう自分の嘘にふと気づく。その二つのパラレルの間にこそ、二人がそれまで共有しそこなってきた真実がある。そういう捉え方ができると、あの母娘はまたやり直せるかもしれない。そういう気がしますね。

映画『真実』は、10月11日（金）より全国公開中。すでに字幕版を観たという方も、日本語吹替版もぜひ劇場でご覧ください。

是枝裕和　1962年6月6日、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、テレビマンユニオンに参加。1995年、『幻の光』で監督デビューし、ヴェネチア国際映画祭で金のオゼッラ賞を受賞。2004年の『誰も知らない』では、主演を務めた柳楽優弥がカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞。2013年、『そして父になる』で第66回カンヌ国際映画祭審査員賞を始め、国内外で多数の賞を受賞。2014年に独立して、西川美和監督らと制作者集団「分福」を立ち上げる。『海街diary』（15）はカンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、日本アカデミー賞最優秀作品賞他4冠に輝く。さらに、『万引き家族』（18）が、第71回カンヌ国際映画祭で栄えある最高賞のパルムドールを受賞し、第91回アカデミー賞R外国語映画賞にノミネートされ、第44回セザール賞外国映画賞を獲得し、第42回日本アカデミー賞では最優秀賞を最多8部門受賞する。

宮﨑あおい　1985年、東京都生まれ。99年に映画デビュー。映画『少年メリケンサック』『ツレがうつになりまして。』『舟を編む』『怒り』にて日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞。その他にも映画『ソラニン』、『神様のカルテ』シリーズ、『わが母の記』、『世界から猫が消えたなら』、『ラストレシピ ～麒麟の舌の記憶～』などに出演。ドラマも『篤姫』『あさが来た』など出演多数。

お問い合わせ先／サポートサーフェス
tel. 03-5778-0017