台風15号と19号が日本全土に大きな被害をもたらしたことから、治水をはじめとする災害対策のあり方が議論の的となっています。日本はこれまで、水害を防ぐため、全国各地に堤防やダムなどを建設してきましたが、政治利権が優先され、本来の目的を逸脱したインフラを乱造したことから、財政を悪化させるという失敗も経験しています。
気候変動によって災害の発生確率が上がっている可能性も指摘される中、これからの災害対策はどうあるべきなのでしょうか。

台風19号によって各地で水害が相次いだことから、ネット上では「八ッ場ダムのおかげで利根川が助かった」「八ッ場ダムは日本のヒーローだ」などと、ダムを賞賛する声が相次ぎました。八ッ場ダムは、地元の建設反対運動が激しかったことや、費用対効果について疑問視する声があったことから、民主党政権時代に一時、建設が凍結されたという経緯があります。

災害大国・日本の治水事業が間に合っていないホントの理由_img0
台風19号の豪雨により、一晩でほぼ満水となった八ッ場ダム。 写真:Natsuki Sakai/アフロ

その後、同じく民主党の野田政権が建設再開を決定して今に至っていますが、こうしたダムがたくさんあれば水害を防げたはずだというのがダム推進派の意見です。

 

ただ、ネット上のやり取りを見ていると、推進派も反対派も単に自民党支持者と野党支持者で罵り合っているだけという側面が強く、合理的な議論が出来ているようには思えません。現実問題として、八ッ場ダムのようないわゆる多目的ダム(あるいは治水ダム)を多数建設することで水害を防げるのかというと微妙なところです。

今回の台風発生時、八ッ場ダムはたまたま実験貯水段階だったことから、雨が降り始めた時点では、ダムはほぼ空っぽでした。このため、ダムが満水になるまでに時間があり、その間に雨のピークは過ぎていきましたから、治水の効果はあったということになるでしょう。しかし同ダムが通常の水位だった場合には、短時間で満水となり、緊急放水が行われた可能性が高く、現実には多少の時間を稼ぐ効果しかなかったと思われます。

そもそも河川の治水というのは、ダムや堤防、遊水池、放水路など、上流から下流までのインフラを総合して実施されるものであり、ダム単独で是非を議論すべきものではありません(どの流域で豪雨になるのか事前に予想することはできません)。下流域を含む、すべての地域で水害をゼロにするためには、莫大なコストが必要となるため、最終的には費用対効果の議論とならざるを得ないでしょう。

 
  • 1
  • 2