王者の系譜を受け継ぐスケーティングとジャンプで、初の世界選手権代表へ
その後もひたむきに練習を重ね、今や山本選手は堂々たる代表候補のひとりです。だからこそ、これからはもう「怪我を乗り越えた」というバックグラウンドだけで語りたくはない。そう思っています。
山本草太選手の魅力は、何と言ってもその伸びやかなスケーティング。シルキーという言い方がふさわしいでしょうか。上質で、なめらかで、気品があって。ひと蹴りでぐんぐん伸びるスケートは、かつての絶対王者であるパトリック・チャンのよう。その端正なスケーティングで観客を虜にします。
念願の夢が叶った😭
— 山本草太 (@so_ta0110) 2014年12月14日
一生の宝物です!!! pic.twitter.com/3HgbT9tT15
憧れは、五輪2連覇の羽生結弦選手。確かに、氷の上に立ったときのシルエットの美しさや、正確な技術に根ざしたクセのないジャンプ、流れる着氷は羽生選手を彷彿とさせるものが。怪我で足踏みをさせられた時期はあるものの、本来は15歳で4回転を習得した天賦の才能の持ち主。羽生選手同様、穴のないオールラウンダーであることが、山本選手の強みです。
とはいうものの、誰かの「2世」というわけでは決してなく、山本選手は山本選手として自分のスケートをしっかり確立させています。特に絶品なのが、今季SPの『エデンの東』で披露するイーグル。シンプルなイーグルだけで観客を沸かせられるのは、名スケーターの証です。また、スピンは回転速度がまったく衰えず、チェンジエッジもスムーズ。ジャンプが跳べない時期に、徹底的にスピンの練習をしたと聞いていますが、「何も咲かない寒い日は下へ下へと根を伸ばせ。やがて大きな花が咲く」。そんな名言を証明するようなスピンです。
先日のフィンランディア杯では、SPで1位。総合でも宇野昌磨選手に続き2位に食い込みました。ふたりがワンツーフィニッシュを飾るのは、2014年のジュニアグランプリファイナル以来。当時、会場だったバルセロナを観光するふたりの姿が報じられ、その無邪気な様子にほっこりさせられたものですが、あれから5年、再び表彰台に並んだふたりの顔つきは大きく成長し、あどけなかった山本選手も凛々しい男の表情に。その精悍な面差しに、決して平坦ではなかった道のりを、それでも諦めずに歩んできた男の澄み渡る覚悟を感じました。
今、山本選手のTwitterのプロフィールには再び「フィギュアスケーター」の文字が刻まれています。きっとそれは「自分はスケートと共に生きていく」という彼なりの所信表明。揺るぎない信念を胸に、再び世界と戦う山本選手のこれからに、たくさんの笑顔と栄光が降りそそぐことを願わずにいられません。
ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が発売中。twitter:@fudge_2002
前回記事「『劇場版おっさんずラブ』2パターンの楽しみ方、あなたはどっち派?」はこちら>>
文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門1&2』(アルテスパブリッシング)など。
ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が発売中。twitter:@fudge_2002
メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。
ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。
ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。
ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。18年に大腸がん発見&共存中。
ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『連続テレビ小説 なつぞら上』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。
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映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。