それだけではありません。民間企業のテストは全国津々浦々で実施されるわけではありませんから、過疎地域に住んでいる生徒は、テストが行われる都市部までわざわざ出かけないと試験を受けることができません。これは、一部の受験生やその親にとって、大きな負担といってよいでしょう。

問題はまだあります。各民間会社は、自社のテストに合わせた形で、多くの模擬試験や対策講座を提供する可能性が高いと考えられます。そうなると経済的に余裕のある家庭では、模擬試験や対策講座をたくさん受け、準備万端で本番のテストに臨むことができますが、そうでない家庭の子どもにはこうしたチャンスが与えられない可能性があります。

 

これまでも塾の存在が学力格差を招くという指摘はありましたが、多くの学習塾がサービスを提供しているのが現実です。萩生田氏も当初は「(経済的に裕福な子どもが有利になるという指摘に対して)それを言ったらあいつ予備校通っていてずるいよな、というのと同じだと思う」「裕福な家庭の子が回数受けてウォーミングアップできるみたいなことはもしかしたらあるのかもしれない」と発言しており、許容範囲内であると認識していました。
 結果としてこれが「身の丈発言」につながったわけですが、同じ民間事業者が試験そのものまで実施するとなると少し話は違ってくるでしょう。

 

民間企業による英語試験の導入は、社内の英語公用語化などを進めてきた楽天の三木谷浩史会長など、経済界の一部からの強い要請を受け、安倍政権がトップダウンで進めてきた施策です。もっとも三木谷氏など推進派の人たちが想像した形になっているのかは微妙ですが、従来の英語教育に疑問を持つ産業界の意向が大きく反映されたのは間違いありません。

現在の英語教育に様々な問題があるのは事実ですが、大学入試の中核となる試験にいきなり民間企業のサービスを導入するというのは少々乱暴だったように思えます。また、大学入試センターが実施する英語の試験があるにもかかわらず、それに加えて、民間試験を受験させる点も何とも不可解です。

すでに大学全入時代ですから、本来であれば、共通テストなどに頼らず、大学ごとにもっと多様化された試験が実施されてよいはずです。一斉に実施する試験はできるだけシンプルな方が望ましく、その意味では、多少の弊害はあっても大学入試センターによる単独実施という方がスッキリするのではないでしょうか。

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