欧米社会では、あいさつ代わりに初対面の人と顔や体を寄せ合う文化があります。そんな社会的な背景も口臭ケアの意識を高めると考えられます。対して日本人の場合は、よほど親しくならない限り、他人のパーソナルスペースには侵入しないのです。そんな日本人の特性によって、口腔内ケアの意識が遅れてきたことが、歯周病を蔓延させてしまったということも見逃せません。
 

 

日本人の約8割が1日2回歯磨きをしているのに口が臭い


「日本人は口臭が多い」と言われているのですが、決して口腔内ケアに対して無頓着ではありません。事実、日本人の約8割が1日2回以上歯磨きをしているのです。ただし、日本人は諸外国に比較して歯周病が多いという事実があり、厚生労働省の2011年の調査では、30歳以上の成人の8割以上に歯周病が見られるというデータが示されています。また、日本人は虫歯も多く、25歳以上85歳未満の人は、8割以上虫歯がある(または虫歯を治療した経験がある)ようです。口内ケアをしていながらこの現状が示しているのは、つまりは、口腔内ケアの方法が間違っているということにほかならないと思います。
厚生労働省による2016年の調査では、「1日に2回歯を磨く」人は、49.8%、「3回以上磨く」人は27.3%に及んでいます。また、「1回磨く」人は18.3%でした。また、民間調査会社のライフメディアリサーチバンクが2013年に行った調査によると、1回の平均歯磨き時間は、1~3分という人が47.3%と最も多く、次に多いのが3~5分で33.8%でした。中には10分以上磨くという人も4.2%いました。

 

ただし現在では、歯磨きの回数や時間そのものが重要ではなく、虫歯や歯周病の原因となるプラーク(歯垢)をどれだけ取り除けるかという質のほうが大切だと考えられています。プラークが形成されてから細菌が歯を溶かすまでには最低でも24時間かかるため、しっかりとした歯磨きでプラークを取り除くことができれば1回でも問題はないのですが、逆に、プラークを取り除くことができていなければ、何回磨こうと意味がないのです。
本当は歯磨きだけでしっかりした口腔内ケアを行うのは困難だと言わざるを得ません。歯と歯の間に溜まりやすいプラークを除去するためには、歯磨きだけでは不充分で、デンタルフロスや歯間ブラシ等を併用することが非常に重要だからです。しかし、スウェーデンのデンタルフロス使用率が51.6%なのに対し、日本では20.5%という水準(2013年、ライオン株式会社の調査)です。「歯磨きさえすればいい」と思っている時点で、日本人の口腔内ケアは諸外国に劣っているのです。

 

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構成/小泉なつみ


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