昭和、平成、令和の三時代をとおして活躍し続けている、詩人・谷川俊太郎さん。
『二十億光年の孤独』や『世間知ラズ』『トロムソコラージュ』をはじめとした、数多くの作品集が、幅広い世代のファンから支持されています。
谷川さんの活動は自身の詩作だけにとどまらず、「鉄腕アトム」の主題歌、スヌーピーで有名な「ピーナッツ」シリーズの翻訳、絵本では、レオ=レオニ作品や「にじいろのさかな」シリーズの翻訳をてがけるなど、その仕事は多岐にわたり、だれもが一度は、谷川さんの手による言葉を目にしたことがあるでしょう。
また、谷川さんの詩は、さまざまなコラボでも注目されています。
昨年は、スニーカー&スポーツウェアの「アトモス(atmos)」とコラボしたポップアップショップがアトモス千駄ヶ谷店に期間限定でオープンしたり、二子玉川の「EYECON SHOP」から、谷川さんの「朝のリレー」全文を刻んだ“文学を味わう”チョコレートが発売され話題になりました。
ちなみに今年の2月上旬には、第2弾として「二十億光年の孤独」をモチーフとしたチョコレートが発売されるそう。バレンタインシーズンに、ちょっとひねりの効いたギフトとしても良さそうですね。
谷川俊太郎詩集 たったいま
この記事では、谷川さんがおくる新作と、 珠玉の名作37編で構成した新刊『谷川俊太郎詩集 たったいま』をご紹介します。
この本は、10代の少年少女に向けて編纂された詩集ですが、大人の私たちにとっても、新しい発見を与えてくれる作品がさまざま収録されています。
なかには、「国語の時間にならった」「歌で聞いたことがある」と、なじみ深い作品もあるのでは。
この本に収録されている詩を一部抜粋して、いくつかご紹介します。
生きているということ
いま生きているということ
泣けるということ
笑えるということ
怒れるということ
自由ということ
(「生きる」より(一部抜粋))
いま、まさに「生きている」からこそ、泣いて、笑って、怒ることができる。あたりまえのことでも、こうして谷川さんの詩のことばであじわうと、ハッと気づかされるような、新鮮な驚きを感じます。
ぼくはきっとうそをつくだろう
おかあさんはうそをつくなというけど
おかあさんもうそをついたことがあって
うそはくるしいとしっているから
そういうんだとおもう
いっていることはうそでも
うそをつくきもちはほんとうなんだ
うそでしかいえないほんとのことがある
(「うそ」より(一部抜粋))
うそはできればつきたくないし、うそをつけば、そのぶん苦しむことになる。そんなことはイヤという程わかっているのに、やっぱりうそをつくしかないときもある。それは、自分のためだったり、時には相手のためだったり……。「うそでしかいえないほんとのことがある」という言葉が、胸にささる詩です。
ひろげたままじゃ持ちにくいから
きみはそれをまるめてしまう
まるめたままじゃつまらないから
きみはそれをのぞいてみる
小さな丸い穴のむこう
笑っているいじめっ子
知らんかおの女の子
光っている先生のはげあたま
まわっている春の太陽
そしてそれらのもっとむこう
(「卒業式」より(一部抜粋))
卒業証書を望遠鏡にみたててのぞいてみると、クラスメートも先生も、いつもと違ってちょっと特別に見えるような気が。
そして、身の回りから外へと目をむければ、春の光があふれ、その先には、新しい世界がまっているのです。
卒業証書の望遠鏡からみえるのは「きみの未来」、そう語りかけるこの詩をよむたび、親しんだものと別れる切なさと、新しい世界へ向かう喜びがないまぜになった、卒業式のあの特別な空気がよみがえります。卒業シーズンに、ぜひ読んでほしい一編です。
最後に収録されているのは、この本のために書き下ろされた新作、「何か」。
わたしに
なくなった何かが
ある
たしかにあったのに
いまはない何かが
ある
それとも
なくなっていないのか
あるのに
ないとおもうのか
おもうから
なくなっているのか
何かは
(「何か」より(一部抜粋))
「わたし」からなくなった「何か」をめぐるこの詩は、読み手にさまざまな気づきを与えてくれます。
いそがしい日々を送る中でも、ときどき静かな気持ちで自分をみつめる時間は、誰にとっても必要なもの。
谷川さんの詩は、辛い気持ちによりそったり、大人のホンネをあかしたり、世の中へ疑問を問いかけたり……。
言葉にならないものを言葉にするーー そうして綴られた作品が、読者の心を柔らかくほぐしてくれます。
どこを開いても、一人で読んでも、声にだしても、野原でも、キッチンでも。
かたわらに置いて、いつでも好きな時に読みたい、そんな1冊です。
試し読みをぜひチェック!
▼横にスワイプしてください▼
『谷川俊太郎詩集 たったいま』
谷川俊太郎:詩 広瀬弦:絵
教科書でもおなじみの詩人・谷川俊太郎さん。その膨大な作品のなかから、37編を選び、新作も収録しました。「かっぱ」「いるか」など、子どもたちに人気の作品から、大人の世界をかいま見るものまで、幅広く集めた詩集です。日々の生活のなかで、好きな作品を楽しんでください。
谷川俊太郎の世界観を表現する、心がしずかになるような広瀬弦のイラストも、味わい深い一冊です。
谷川俊太郎(たにかわ・しゅんたろう)/1931 年東京生まれ。詩人。1952年第一詩集『二十億光年の孤独』を刊行。 1962年「月火水木金土日の歌」で第四回日本レコード大賞作詞賞、 1975年『マザー・グースのうた』で日本翻訳文化賞、 1982年『日々の地図』で第34回読売文学賞、 1993年『世間知ラズ』で第1回萩原朔太郎賞、 2010年『トロムソコラージュ』で第1回鮎川信夫賞など、受賞・著書多数。詩作のほか、絵本、エッセイ、翻訳、脚本、作詞など幅広く作品を発表。校歌や合唱曲などの仕事も多い。絵本に『せんそうしない』(絵/江頭路子)、『モナド』(絵/ GOMA)、翻訳に「にじいろのさかな」シリーズなどがある。
(C)深堀瑞穂
構成/北澤智子
Comment