「こだまでしょうか」や、「みんなちがって、みんないい」というフレーズを、耳にしたことはありませんか?
これは、大正末期から昭和初期にかけて活躍した詩人・金子みすゞによる詩の一節です。
この記事では、2020年に没後90年を迎える金子みすゞの生涯と、彼女の代表的な作品を、いもとようこの絵とともに贈る新刊『金子みすゞ詩集 こころ』より、ご紹介します。
 

金子みすゞの生涯


今から90年前、26歳でこの世を去った金子みすゞ。その生涯は、どのようなものだったのでしょう。
金子みすゞは明治36年(1903年)生まれ。高等女学校を卒業したのち、20歳のころから詩作をはじめます。そして、4つの雑誌に投稿した作品がすべて掲載されるという鮮やかなデビューを飾り、またたくまに、気鋭の童謡詩人として知られるようになりました。
しかし、その輝かしい活躍もつかの間、夫から詩作を禁じられ、病も患います。その後、夫とは離縁はできたものの、当時3歳だった最愛の娘の親権を奪われ、みすゞは26歳の若さで自死の道を選びました。
彼女の死後、長いあいだ作品は埋もれていましたが、児童文学者の矢崎節夫氏(現金子みすゞ記念館館長)の努力によって遺稿集がみつかり、没後50余年を経て、再び世に送り出されたのです。
 

こだまでしょうか


「遊ぼう」っていうと
「遊ぼう」っていう。

「馬鹿」っていうと
「馬鹿」っていう。

「もう遊ばない」っていうと
「遊ばない」っていう。
(「こだまでしょうか」より一部抜粋)

CMでもおなじみ、金子みすゞの代表的な作品です。相手を想う言葉も、傷つける言葉も、投げかけられた想いに呼応するのは、誰もが等しくそうなのだ、という事をうたっています。
相手にかけた言葉は、こだまのように自分に返ってくる。優しい言葉を伝えれば、やさしい言葉が。傷つける言葉をぶつければ、自分も傷つくことになる……。
こんな、あたりまえと思えることも、忙しい日常生活では忘れてしまいがちですが、家族や職場、身の回りの人たちへかける言葉の大切さを、気づかせてくれる作品です。

この本には、「大漁」という作品も収録されています。
「朝焼小焼だ 大漁だ」と、イワシの大漁に沸くお祭りのような浜辺の様子と、「海のなかでは 何万の 鰮(いわし)のとむらい するだろう」という対照的な情景をうたった作品で、同じ出来事でも立場が変われば受け止め方はまったく違うのだ、という事を改めて考えさせられる一編です。
この詩のように、価値観の違いや、受け止め方の違い、他者への思いやりなどを、なにげない日常の風景をとおし、簡潔な言葉で表現していることも、金子みすゞ作品の魅力の一つといえるでしょう。

もうひとつ、ご紹介したいのが「不思議」という作品。(国語の授業で習った人も多いのでは?)
黒い雲からふる雨が銀色に光ること、夕顔がいつのまにかひとりでに花開くこと、そんな、誰もが「あたりまえ」に受け止めていることの、不思議さをえがいた詩です。
瑞々しい感性にあふれたみすゞの詩を読むと、自然の美しさ、生き物の営み、そのひとつひとつが愛おしく、そして一瞬一瞬が、かけがえがないものだと気づかされます。

絵は、日本を代表する絵本作家のひとり、いもとようこさんが手がけています。金子みすゞのやさしい言葉で表現される詩の世界と、いもとさんならではの、深くあたたかみのある作品が響きあっています。


20歳から詩作を始めたみすゞは、5年という短い期間に、500編もの作品を生み出しました。その作品は人の心に深く問いかけ、他者へのあふれんばかりの愛で包まれています。
没後90年の節目となるこの機会に、彼女の遺した作品を、いもとようこさんの絵とともに味わってみてください。

 


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つたえたい美しい日本の詩(こころ)シリーズ 金子みすゞ詩集 こころ

金子みすゞ:詩 いもとようこ:絵

「つたえたい美しい日本の詩(こころ)」シリーズ第1集。
やわらかなことばで、人のこころに深く問いかける金子の詩の世界と、日本を代表する絵本作家の一人、いもとようこの作品世界が強く響きあう。「詩を絵本で味わう」1冊。
没後90年、あらためて金子みすゞの作品の魅力に触れてください。「初めて出会う詩の本」として、読み聞かせにも。

構成/北澤智子