感染拡大が深刻な中国、グラフィティにもマスクをした人の姿が。 写真:ロイター/アフロ

新型肺炎の感染者が国内でも増加していることから、ネット上では一部の人が、少しパニック気味になっているようです。今のところ特効薬がない病気ですから、多くの人が恐怖を感じるのは当然ですが、一方で、この病気はウイルスによる感染症であり、インフルエンザなど従来型感染症と予防策が大きく変わるわけではありません。ビジネス上の判断が求められるケースも増えてくると思いますが、感染症の基本に立ち返って考えることが大事でしょう。

 

この原稿を書いている2月18日時点において、国内の感染者数は500人を超えています(集団感染が発生したクルーズ船の乗客含む)。毎日のように感染者を確認したという報道が出てきますが、人数の絶対値に対して過剰に反応するのは控えた方がよいでしょう。その理由は、感染者というのは、病院で検査を受けて初めて分かるものだからです。

これまでは、コロナウイルスの検査をしたいと申し出ても、中国の湖北省や浙江省と関係がある人しか検査を受けることができませんでした(政府は2月17日に検査対象拡大を自治体に通知しました)。検査態勢には限りがあるので、多くの人が検査を希望してしまうと施設がパンクしてしまうというのがその理由です。

そうなると、湖北省と関連のある人で自ら検査を申し出た人か、あるいは実際に症状が出て患者として病院を受診した人しか検査の対象にはなっていませんでしたから、現実にはもっと多くの潜在的な感染者が存在していたと考えられます。検査対象が拡大されたことで、これから多数の感染者が確認されてくるはずですが、これは急に感染が拡大したのではなく、検査態勢が変わったことが原因ですから、過度に怯える必要はありません。

この話を大前提にすると、ウイルスに関連した一連の出来事に対する見方もかなり変わってくるはずです。

現在、横浜に停泊しているクルーズ船の隔離が大きな話題となっており、乗客の一部は、仮に下船できたとしても、差別などひどい扱いを受けるのではないかと心配しているそうです(19日から一部乗客の下船が始まっています)。

このクルーズ船が横浜に到着したのは2月3日ですが、国内で初めて感染者が確認されたのはそれよりずっと前の1月15日で、1月28日には日本人の感染者も確認されていました。先ほど申し上げたように、感染が確認できるのは全体のごく一部ですし、毎日、何万人もの人たちが飛行機でアジアと日本を往復していますから、疫学的には、クルーズ船が到着した時には、すでに国内において広範囲に感染が広がっていたと考えるのが妥当です(実際、専門家は皆、そう認識しています)。
つまり、クルーズ船の到着とは無関係に、すでに日常生活で感染リスクが高まっていたわけですから、クルーズ船だけを隔離しても、日本全体からするとその効果は極めて乏しいということになります。

 
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