思わず二度見してしまうほど小さな顔に、すらりと伸びた肢体。抜群のスタイルと爽やかな顔立ちで、いわゆる“イケメン俳優”としてカテゴライズされてきた向井理さん。2010年、NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』でブレイクして以来、第一線を走り続けてこられたのは、人気にあぐらをかくことなく、演技力を磨く努力を怠らなかったからに他なりません。大勢の観客の前に、身体ひとつで立つ――。幕が開けばやり直しはきかない。想像するだけで緊張してくる、舞台という厳しい場を、自ら求め続けてきました。

 

向井 理 Osamu Mukai
1982年、神奈川県生まれ。2006年デビュー。2009年、ドラマ『傍聴マニア09〜裁判長!ここは懲役4年でどうすか』で初主演。翌年には、NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』で、“水木しげる”をペンネームに持つ漫画家役を演じ、全国区の人気を獲得。同年、「GQ MEN OF THE YEAR 2010」や第35回エランドール賞新人賞を受賞。昨年、ドラマ『わたし、定時で帰ります。』で、仕事はできるが恋愛に不器用な種田役を好演し、放送終了後は“種田ロス”する視聴者が続出した。初舞台は2011年の『ザ・シェイプ・オブ・シングス~モノノカタチ~』。以来、劇団新感線の『髑髏城の七人』や赤堀雅秋が作・演出した『美しく青く』と、コンスタントに出演し続けている。

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開演直前は吐きそうなくらいの緊張に襲われる


「舞台は恐ろしい」。虚勢をはることなく、素直な言葉で気持ちを語る向井さん。

「初日が近づくと、台詞が飛んで一人立ち尽くしているとか、胃が痛くなるような夢を見て、汗だくで起きるんです。今朝も、舞台が近いわけではないのに、急に共演者が出られなくなって、その役も僕がやることになったんですけど、できるはずもなく幕間で落ち込む、という……。劇場に入ってスタンバイしている時は、吐きそうになるくらい緊張します。そのたびに『なんでこの仕事を受けたんだろう』って思うし、そこには後悔しかないですね」

それでも、けっして逃げない。立たないという選択肢があるにも関わらず、つらいとわかっているほうをわざわざ選ぶのは、向井さんにとって舞台は「やらなければいけないこと」だから。

「舞台をやらなければ、自分の演技のクセというか慣れというか、“手垢”が取れないままになってしまう。ついてしまった手垢をそぎ落とすためにも、僕にとって稽古場で過ごす一カ月はとても大事な意味を持っているんです。本番は、稽古期間をどれだけつらく過ごせるかにかかっているとも思っています。演出家と演者と話し合い、自分が出ていない場面にも立ち会い、他の演者の芝居をじっくり見る。そうしてやっと俯瞰で自分を捉えられるようになるんです」

積み上げた稽古を出し切る本番では、「アドリブは絶対にしない」と言い切ります。

 

「アドリブっぽく見せたり、突発的なことが起きて、リカバリーすることはあります。台詞を噛み倒して、もう絶対に台詞が出てこないなという人をフォローして『向井くん、ありがとう』と言われれば嬉しいですし、ハプニングも舞台ならではの面白さです。ちなみに、噛み倒したのは大倉(孝二)さんなんですけどね(笑)。もちろん僕が助けてもらうこともあります。でも、稽古場とは違うことをするアドリブは冒瀆だと思うんです。僕にとっては、稽古場で作ったものがすべてなので」

楽屋での過ごし方にも、かなり細かいルーティンを持っています。いつどこでストレッチをして、どのタイミングで歯を磨くなど、開演を告げるブザーが鳴るまで、分刻みで決めているのです。

「毎公演リセットして、同じことを繰り返さないと、初日の感覚を取り戻せなくて気持ち悪くて。特にマチネ(昼公演)とソワレ(夜公演)の間は、リラックスできる音楽をかけて、必ず寝ます。寝るとどうしても体が縮こまって、発声からやり直すことになるんですけど、マチネの反省点を引きずらないためにもいったん寝て、朝やったことを最初から全部やっています」
 

 

お客さんの前で汗をかく舞台がお芝居の原点


稽古場でも楽屋でも、もちろん本番でも、どこまでも真剣に作品、そして自分に向き合うからこそ味わえる、舞台ならではの醍醐味があると言います。

「あんなにも緊張して、後悔もしていたはずなのに、芝居が終わり客電がつくと、何百人という人たちが目の前で拍手してくださっている。あれは、舞台に立たないと見られない景色ですね。千秋楽を迎えると、また見たくなるんですよね、その景色が。それで新しい作品の稽古に入るんですけど、やっぱり同じように後悔し始めます(笑)。でも、生身の人間が、お客さんの目の前で必死に汗をかくことが、お芝居の原点。そこでしか受けられない刺激をこれからも大事にしていきたいですね」

 
 
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