国内で最初の感染者発表が2月28日。ほかの国と比べて時間的に有利だったことは確かです。それでも「コロナか、首相か」といったスピード感で、アーダーン首相は国内初の感染者が出てから1ヶ月足らずでロックダウンを決めました。
 

首相のひとことで「つながり」を自覚


「自分がCOVID-19を持っていると思って行動するように」

ロックダウン直前の記者会見で、アーダーン首相からこんなメッセージがありました。判断に迷うことがあれば、常にこの大原則を適用すべし、と。さらに、ウイルスを持っているとしたら「あなたが取る行動のすべてが誰かを危険にさらすだろう」と続けました。
首相からゆっくりと投げかけられたその言葉は、光の速さで脳みそを一周。自分が無意識でしている行動がニュージーランドと、そして不特定多数の人とつながっている。いままで目を向けたこともなかった事実を実感しました。

「Unite against COVID-19(ひとつになってCOVID-19に対抗しよう)」

アーダーン首相のもと、ニュージーランドではこんなスローガンが掲げられています。特にこのロックダウンに際しては、みんなが生活を一転させ、同じ目的に向かって舵を切らなくては意味がありません。

近所の中心スポット。人っ子一人いません。
 


「伝える側」が国民に寄り添うコミュニケーション術


ニュージーランドにおけるロックダウンの目的は「感染の連鎖を断つ」こと。そのため、子どもから大人までが身体的なつながりを断って、「ステイホーム」に専念しています。連鎖を減らして医療崩壊を防ぐには、筆者のように情報を「受け取る側」の動きが鍵ということになりますが……多文化・多人種がごった返すこの国、正しい情報をすべての人に伝達し、コントロールするのは難しいのでは?というのがウイルス上陸時の正直な気持ちでした。
ところが、私の目に映ったのは、この非常事態下で首相をはじめとする「伝える側」と「受け取る側」の距離がぐっと縮まる現象でした。

わかりやすい単語で、ゆっくりと。理解を示し、重要な点は繰り返す。
アーダーン首相が国民にメッセージを送るときのスタイルです。いつまでたっても英語と奮闘中の筆者にとっては、これがなんともありがたい。また、ロックダウン前に私服姿の首相が自宅からFacebookライブを行ったのは有名ですが、こうしてオンラインにひょいっと現れては、重要な情報をフォローアップする様子がしばしば見られます。

アーダーン首相がロックダウン前に私服&自宅で行ったFacebookライブ。

Instagramでもコメント欄で質問を募るといった投稿もあり、コミュニケーションのかたわら、情報へのアクセシビリティを高める努力には好感を覚えます。また「今後6ヶ月間は首相や閣僚たちの報酬を20%カットする」との発表もあり、経済的なインパクトを分かち合う意向が国民に伝えられました。