パパッと作れてしっかりおいしい、アイデア満載のレシピ本でも大人気の、伝説の家政婦・タサン志麻さん。そんな志麻さんのお家は、なんと築60年、家賃5万7千円の古民家! 著書『ちょっとフレンチなおうち仕事』では、フランス人の夫・ロマンさんと2人の息子さんたちとの古民家暮らしや、料理の勉強を通じて学んだフランス流のがんばりすぎない生き方を教えてくれます。

少しの工夫で料理がラクになる、子育てが楽しくなる、そんな“ちょっとフレンチ”な暮らしのコツが詰まったタサン一家の生活を、特別に一部抜粋してご紹介します。簡単なのに激ウマなラタトゥイユのレシピもお見逃しなく!

 

タサン志麻さん:大阪あべの・辻調理師専門学校、同グループ・フランス校を卒業。ミシュランの三ツ星レストランでの研修を経て帰国。老舗フレンチレストランなどに15年勤務。2015年にフリーランスの家政婦として独立。各家庭の家族構成や好みに応じた料理が評判を呼び「予約がとれない伝説の家政婦」としてメディアから注目される。フランス人の夫、2人の息子、2匹の猫と暮らしている。

 


今、私たち家族が住んでいるのは、古い一軒家です。ここへ引っ越してくる前は、夫のロマンと都心のマンションで暮らしていました。場所柄、家賃が高くてスペースは狭いという状況だったので、古くてもいいから広い一軒家に住みたいと、二人でよく話していたのです。

私が一人暮らしのときは、毎晩遅くまでレストランで働き、そばに借りていた家には寝に帰るだけという状態だったので狭くても大丈夫でした。しかし、フランスで生まれ育ったロマンにとって、家は心地よくすごすための場所であり、窮屈なスペースは苦手だったのだと思います。結婚して夫婦二人で過ごす時間が増え、さらに将来のことを考えると、都心のマンションでの暮らしは難しいと思うようになっていきました。

ロマンは、子どもといっしょになって大声で歌ったり踊ったりする性格です。それに、夫の家族がフランスから訪ねて来たり、お互いの友人を招いたり、とにかく大勢でワイワイ楽しくごはんを食べる時間を大切にするのなら一軒家がいいのだろう、と。

それに、ロマンも私もDIYをしたいという気持ちがすごくあったのです。フランスでは、多くの人が自分の手で好きなように壁を塗ったり、棚を取り付けたりしています。暮らしの基盤になる場所だからこそ、自分たちで少しずつ居心地よくしていけたらいいと思っていました。

というわけで、リフォームOKな一軒家を探して見つけたのが、築60年のこの家です。じつは、ネットで外観だけを見ていたときには、少し不安がありました。あまりにも古すぎて怖いくらいの印象だったからです。

でも、不動産屋さんに連れられて、玄関を入った瞬間にひと目で気に入りました。古い家ならではの味わいがあって、ほっとする感じがして、大好きだった祖母の家を思い出したのです。もちろん、古くてボロボロでしたが、畳ははがしてフローリングを貼ればいいし、壁は塗ればいい。手を加えればなんとかなるだろうと思いました。

改装前には雨もりがしていたキッチン。壁、床、窓を夫のロマンさんが補修して、リフォーム後はすっきり清潔な気持ちいい台所に。

現状復帰が不要で、リフォーム自由。広いうえに家賃は5万7千円という安さ。マンションではダメだった猫を飼うこともできます。何よりも、祖母の家に似た雰囲気を持つ一軒家です。私はすぐに「ここがいい、ここにしよう」と、ロマンを説得していました。