風邪といったウイルス感染症は薬では治せない
つまり、ウイルスによる感染症は、薬では治せないのです。
たとえば、外来で診察していると、小児科にかかる患者さんはウイルスによる感染症、いわゆる「風邪」の症状がいちばん多いのですが、それに対して医師はせき止めや解熱剤、抗生剤などの薬を処方します。患者さんの親たちもそれで安心されます。しかし、本来風邪に効く薬はありません。
医師が「風邪の薬」といって出す薬は、熱やせき、鼻水をおさえるもので、風邪自体に効いているわけではありません。では、なぜ薬を出すのか?
薬によって症状をおさえているうちに、患者さん自身の自然治癒力が、風邪を治しているのです。つまり、医師が薬を出さなくても治っていくのです。
薬への過度な期待よりも、自然治癒力を身につける
新型コロナウイルスの感染拡大の不安が広まるなか、有効な薬として、日本が開発した抗ウイルス薬「ファビピラビル」(商品名=アビガン)が注目されています。
この薬は、新型インフルエンザに対してだけ適応が認められている薬剤(錠剤)で、ほかの治療薬が無効なインフルエンザが発生した際に、国が使用すると判断した場合のみ投与することが可能な薬剤でした。
しかし、今回の新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、厚生労働省は2020年2月末より一部の医療機関で投与を開始し、今後、全国の医療機関にも広める方向性となりました。
一説ではウイルス感染症のあらゆる問題を解決する救世主のようにもてはやされています。しかし、私の考えはそこまでの期待感はまだまだ早計なのではと感じています。というのも、たとえばインフルエンザに対する治療薬(商品名=タミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタ)はたくさんありますが、どの薬も大差なく、その効果も症状を半日ほど短くする程度だからです。
注目のアビガンも、現在の投与量では今までのインフルエンザ治療薬と同等の効果と考えられます。
しかし、今回の新型コロナウイルスに対しては、高齢者や基礎疾患をもつなどリスクの高い人、入院以上の重症例に関しては投与を試みる価値があるかもしれません。
今のところ臨床的な効果は限定的ですが、理論的にはとても効果が期待できる薬剤なので、投与量を調節したり、それぞれのウイルスに対する特異性を高めたりする改良を行うことにより、効果を高められる可能性がある薬剤だとは思います。
しかし、新型コロナウイルスを含め、感染症を恐れない唯一の方法、それは、やはり患者さん自身の自然治癒力になるのです。
薬への過度な期待を抱くよりも、腸内細菌を元気にして、自分自身の免疫力を高めることこそ「薬」と、私は考えるのです。
<新刊紹介>
『感染を恐れない暮らし方 新型コロナからあなたと家族を守る医食住50の工夫』
(講談社)
定価:1650円
著者:本間真二郎
ISBN 978-4-06-520424-5
「感染しない」「発症させない」「重症化させない」――新型コロナからあなたと家族を守るためにもっとも大切なことは、「免疫力」と「自然治癒力」を生活のなかで高めていくこと。米国のNIH(アメリカ国立衛生研究所)出身のウイルス学研究者で那須烏山の自然派医師が実践する自然に沿った暮らし方で、感染を遠ざけ、万一感染しても追い出す力を備える。
第1回「【コロナと共生する知恵】手の洗いすぎ、消毒のしすぎは感染リスクを高める恐れも」はこちら>>
第2回「【医師が提案】ウイルス感染を予防する日常生活の習慣「鍵は腸内環境にあり」」はこちら>>
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