2つ目の治療薬、デキサメタゾンとは「ステロイドの一種」
その後、多くの治療薬で有効性が証明されない中、デキサメタゾンと呼ばれる薬剤が有効性を示したことが報告されました。
デキサメタゾンという薬剤は、「ステロイド」と呼ばれる薬の一種です。ステロイドは、例えば喘息発作の炎症をとる目的で、あるいは「自己免疫疾患」と呼ばれる種の病気で免疫を抑える目的で、と様々な場面で使用されており、私自身も医師として頻繁にお世話になっている薬剤です。
コロナウイルスの克服には「免疫が鍵だ」という話を耳にされたことがある方は、免疫を抑えるような薬を投与していいのか、と思われたかもしれません。実際、免疫も、免疫の働きの結果生じる炎症も、人がウイルスを駆除するのに大切な働きです。これを抑える薬は、マイナスに働いてしまいそうです。
しかし、この炎症の働きは、時にオーバーヒートしてしまうことがあり、これがCOVID(新型コロナウイルス感染症)の重症化の一因を担っていることが分かっています。ステロイド薬はこの「いきすぎた炎症」を抑え、重症化を抑えるというコンセプトのもとCOVIDの患者に試験的に投与が行われてきました。
ここから、薬の立ち位置がレムデシビルとは大きく異なることがお分かりいただけるかと思います。レムデシビルがウイルス自体に効果を発揮するのとは異なり、デキサメタゾンには、ウイルスへの効果は期待できません。この薬は、ウイルスが感染して生じる炎症を抑えるのです。
このデキサメタゾンの有効性を検証する試験では、デキサメタゾンを投与した患者で、なんと致死率の低下まで示されています(参考3)。これはレムデシビルでも示すことができなかったので快挙とも言えます。ただし、注意が必要なのは、全体として17%程度の致死率の低下が認められたものの、改善を示した患者を詳しく見てみると、酸素投与を必要とした患者や人工呼吸器を必要とした患者など、中等症や重症の患者でした。酸素投与も不要な軽症の患者には、残念ながら効果を確認できず、むしろ致死率悪化の傾向すら認めていたのです。
事実、このステロイド薬は諸刃の剣であり、適材適所で用いればとても有効な薬ですが、免疫力を落としたり、血糖値を上げてしまったりと、副作用も多く知られている薬です。このように、薬はなんでも投与すれば良いというわけではなく、適材適所で用いなければ、逆に有害なものになってしまうのです。
これらの試験結果から、現在のところの最善の治療法として、軽症の患者に対しては闇雲に薬を投与せず、重症な患者に対してのみレムデシビルとデキサメタゾンを組み合わせて投与するような治療が考えられています。
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