実は彩吹真央さんを取材するのは2回目。一度目は緊急事態宣言が出される直前でした。新型ウイルスが猛威を振るい始め、エンターテインメント界に影響を及ぼし始めたタイミングで伺ったお話には、先の見えない不安が色濃く出ていたのです。そして、予定されていたライブや舞台が延期に。そのまま自粛期間に入ってしまいました。
長い自粛期間を経て、緊急事態宣言が解除されたあとも、エンターテインメントの世界はまるで羽をもがれた鳥のよう。大勢の人がかかわることになる舞台などは予想よりも再開に時間がかかりました。ようやく少しずつ動き始めたのは7月に入ってから。満員御礼だったはずの公演をソーシャルディスタンスで配席し直してチケットを再販売、新たにストリーミングでの生配信が始まるなど、エンターテインメント業界も新たな道を歩みつつあります。
今回、彩吹さんも自粛後初の舞台に立たれることになり、改めて今の心境を伺うことができました。
観てくださった方が少しでも元気づけられたら、嬉しい
彩吹真央さん(以下、彩吹):私だけではなく、周りの人も、そして日本だけでなく世界中の人にとっても初めてのことが現実に起こっているのだと納得するまでに時間がかかりましたね。エンターテインメントに関わる一切は有事の際にはどうしても回復が後回しになってしまうわけで、自分たちがいつ舞台に立てるのだろうという思いはもちろんでしたが、いつ皆さんが舞台というエンターテインメントの世界を楽しんでいただけるのだろう、いつお客様が劇場に帰ってきてくださるんだろうと思うと、途方もない月日がかかるのではないかと思い、愕然としていました。
その一方で、オンラインでの表現方法がどんどん進化していったのはやはり必然だったんでしょうね。自粛中ではありましたが、リレー形式で歌を歌ったり、過去の出演作品を配信するという形で、彩吹真央というひとりのエンターテイナーとして声を届けることができたのはとても嬉しかったです。私は元々『観に来てくださった方が少しでも元気づけられたり、明日の仕事を頑張ろうと思って下さったらいいな』という思いをもってこの仕事に携わってきたので、オンライン・配信という形の中でも“彩吹真央としてできる限りのことはやりたい”という思いで参加させていただきました。
アメリカではミュージカルの聖地と言われるブロードウェイの年内全面休業が決定していますが、日本では前述のように少しずつエンターテインメント界が動き出したところ。彩吹さんが出演されるのはシアタークリエで開催される『SHOW-ISMS』。演出家・小林香さんの彩り豊かな演出で上演を重ねてきた過去8作品に渡る『SHOW-ism』シリーズの集大成となる作品です。彩吹さんは10年前、宝塚歌劇団を退団して初めてのお仕事として、その第一弾『DRAMATICA/ROMANTICA』に出演されていました。
彩吹:本来はこの期間シアタークリエでは元宝塚歌劇団の美弥るりかさん主演の『SHOW-ism』シリーズの最新作『マトリョーシカ』が上演されるはずだったのですが、こういった状況で中止が決定してしまいました。それは本当に残念なことでしたが、自粛が解除されたということもあり、本来とは違う形の『マトリョーシカ』をお届けしながら、その機会を借りてショー形式で今までの『SHOW-ism』シリーズを振り返ろうと、小林さんが歴代の出演者に声をかけてくださったんです。私にとっては退団後の記念すべき最初の作品。昨日たまたま衣装合わせだったのですが、ドレスっぽい衣装を着たら周りのみなさんが「(10年前と比べて)ゆみこさん(彩吹さんの愛称)が女性になってる!」と驚いていて(笑)。自分では何かが変化したという感じはありませんが、10年の時を経て、女らしくなったのかしら……なんて思ったり……。そしたら、演出の小林さんが「美弥るりかさんは男役を卒業したばかりだけど、女っぽいよ」って(笑)」
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