心理占星術家・鏡リュウジさんに聞く「占星術の魅力」と本場イギリスでの学び
「そうだ! ユングでいこう!」で心が決まった
鏡 ユングはオカルト的な神秘現象を「無意識」という概念を結びつけて考えたんですね。一見不可解な幻想や現象は人間の無意識の産物だと解釈したのです。
そのため彼は霊媒や錬金術、占星術といったものにも積極的に関わって研究していきました。
そもそも、「無意識」って見えないものでしょ? だったら形のない神々と同じですよね。つまり昔から占星術や魔術的な思考で言ってきたことを、ユングは「無意識」という心理学の言葉で置き換えたものではないか、というのが僕の理解でした。
結局、ユングの心理学も昔からやっていた占星術の現代バージョンなんだと思ったんです。
オカルトや魔術、占いっていう表現にすると、何だかあやしげですよね。もちろん全面的に信じているわけではないものの、そういうものが好きだと言ったら、ちょっとバカにされるんじゃないかという思いも正直ありました。
それがユングという偉大な学者が、オカルトや占星術、魔術といったものについて「無意識」という精神心理の概念を想定して、大真面目に研究している。近代的な知識人の中で唯一、ある種、合理性をなんとか担保しながら、神秘体験みたいなものにフォーカスしている人って、ユングぐらいしかいなかったんですね。
このユングを大義名分にして、自分の好きな占いや魔術をやればいいんじゃないかと、そのときふと思ったたわけです。親にも言い訳ができますしね。笑
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編集部 たしかにユングを盾にすると、オカルトや占いといった神秘的なこともアカデミックな雰囲気をまといますね。家族は説得できそうです。笑
その頃からですか、占い雑誌など文章を書かれるようになったのは?
鏡 すでに高校生の頃から、雑誌の連載は始まっていました。当時、産経新聞から『ミュー』という占い専門誌が出ていて、その雑誌にいろんな媒体で占いを書かれていらしたGダビデ研究所のGダビデ先生が、「ホロスコープ入門講座」という連載をもっていらっしゃいました。
そこに毎回、問題が出題されていたんです。「こういう星の配置のときはどう解釈しますか」というような問題ですね。そのコーナーに毎回、僕の地元である京都からはがきでせっせと投稿していました。よく優秀賞ももらっていたんですよ(笑)。
占い雑誌の投稿マニアは中学生!?
鏡 そうしたら、あるときGダビデ先生から直接電話がかかってきて、「東京に出てきませんか?」と言われてびっくり! 当時、僕はまだ中学3年生でしたから、高校には進学したいということをお話しして待ってもらったんです。あちらも僕が中学生だということに驚いて、これは面白いから、それじゃあ連載を始めましょうという話になって。
少女漫画家のデビューみたいでしたね。笑
400字程度の「今週の星の配置と解説」みたいな連載でしたけど、まだファックスもなかったので、手書きで原稿用紙に書いて郵便で送っていました。
編集部 中学生というのは驚きです! まさに天才占星術少年だったんですね!
その後、国際基督教大学(ICU)に進学されて、東京に出てらしたわけですね。大学ではどんな活動をされていたんでしょうか?
鏡 当時のICUは、ケンブリッジに学生寮がありました。そこに語学留学という名目で1ヶ月くらい滞在しては、占いやオカルト関係のイベントに参加していましたね。
オカルト専門店に行くと、いろんなイベントのチラシが置いてあるんです。そこでイギリスに滞在しているうちに行けるイベントを探して、たどたどしい英語で公衆電話から電話をかけて、参加申し込みしていました。「君、占星術、知ってるの?」なんて言われながら。笑
今思うと怖いもんなしですよね。当時はスマホだってないし、地図さえもよくわからない中、よく行ったなと思います。
イギリスは魔術の本場だけあって、魔術の本もたくさんあります。クリスティーナさんという、現役の魔女もいらっしゃるくらいですから。彼女とは僕も定期的にお会いして、日本でも僕との対談のイベントをした際、実際に魔女の儀式を行っていただいことがあります。クリスティーナさんとの出会いも、彼女の経営している魔女ショップに僕が飛び込みで行って、親しくなったのがきっかけです。
そういう渡英経験の中で僕に多大な影響と刺激を与えてくださったのが、前回の記事にも登場したジェフリー・コーネリアス博士とその奥様でいらっしゃるマギーハイドさん。毎年イギリスに行ってはご夫妻を訪ねていました。今もその交流は続いていますよ。
でも、最初の頃は叱られたり、厳しい助言をいただいたりもしました。占いや魔術に興味があるというだけで毎年イギリスを訪れている日本の若者なんて、当時は珍しかったですからね。ジェフリーさんからすると僕は不可思議な存在だったようで、「君は僕にとってはミステリーだ! 君はなんのためにイギリスに来てるの?」と言われました。
僕がちょっとおべっかを使って、「あなたみたいな人に会うためです」と言ったら、「僕はそんなことを聞きたいわけじゃない。君はクリティカルじゃない。僕の本を読んでどう思ってるんだ。批評してみなさい!」と、かなり厳しい口調でおっしゃられて。
それでも僕がたどたどしい英語で感想を述べると、根気強く聞いてくださいました。今思うと本当にありがたかったですね。ジェフリーさんご夫妻が僕にとっては第二のイギリスの両親みたいなものです。
占星術の本場英国で経験も知識も磨いた。それが僕の財産
編集部 鏡さんは英国占星術協会の会員でもいらっしゃいますけど、それもその学生時代に渡英していたころから参加されるようになったんですか。
鏡 まずは日本からメンバーになって、それから年に1度の大会に毎年のように顔を出すようになり、今ではそこで発表もしています。世界にたくさん占星術の団体がありますけど、一番古いグループの一つですね、英国占星術協会は。
講談社の女性誌『FRaU』に占いを書かせていただいていた頃は、僕はまだ大学院生だったんですけど、日本は西洋占星術に関する情報が、まだまだ少なかった。雑誌の企画にしても書籍にしても、1950年代のテキストの焼き直しばかりをやっていて、目新しい占星術の手法などは出てきていませんでした。
でも、イギリスでジェフリーさんやマギーさんたちをはじめ、英国占星術協会でいろんな知識を得ることで、「占星術にももっといろんなバリエーションがある」ということを学びました。イギリスという占星術や魔術の本場で、自分よりもっともっと経験も知識もある方たちと、若い頃からディスカッションしたり、カンファレンスで発表したりできたことは、僕の貴重な財産になっていますね。
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編集部 これまで占いやオカルトにひたむきに向き合われてこられて、これからはどんなことをなさりたいですか?
鏡 ヨーロッパの社会では、ローマ時代から占いというテーマはあって、哲学者や政治家たちもその占いを認めてきました。その後、キリスト教の中でも葛藤があり、占いについていろんなことが論じられてきています。そのメインストリームの哲学史の中の占いというものを、エッセイでもいいから書いていきたいですね。
編集部 面白いお話が次々と飛び出してきて、鏡さんのことも占いや魔術のことも、もっと知りたくなりました!
ミモレでは10月1日の中秋の名月の夜に、「ムーンマジックナイト with 鏡リュウジ」と題してオンラインイベントを企画しています!
今回は「生まれた時の月の満ち欠けから導く、ルネーション占星術」や、鏡さんのご友人でもあるマリンバ奏者のSINSKEさんによる演奏、さらにさきほどの鏡さんのお話にも登場したロンドンで魔女のお店を経営する博士号もお持ちの本物の魔女、クリスティーナさんにもご登場いただきます。たくさんの方のご参加、お待ちしております。
構成/藤本容子
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