65歳以上の5人に1人が、認知症になるかもしれない


最後に触れておきたいのが、認知症の話です。

そもそもまず「認知」というのは何でしょうか。これは、人が学習する、記憶する、言語を用いる、計画したことを遂行する、自分の置かれた状況を認識するという機能のことです。

「認知症」というのは、これらの要素のうち一つ以上が、生まれつきではなく、大人になってから障害されて衰退し、日常生活を独立して送ることが難しくなった状態のことを指します。

認知症は、2025年には65歳以上の5人に1人が発症するとも試算されています(参考6)。それほどありふれた病気である認知症ですが、原因は様々です。

代表的な原因ともいえるのが、アルツハイマー病です。この病気は今のところ、有効な予防法が知られていません。認知症発症原因として次に多いのは脳梗塞ですが、こちらは予防することができます。

脳梗塞の予防は、基本的に心筋梗塞の予防と同じです。すなわち、健康な食生活、運動、血圧やコレステロール、血糖値の管理といったものです。

また、認知症を発症しない人でも、歳とともに記憶力や集中力は少しずつ減ってしまうことが知られています(参考7)。
 

 

歳を重ねることのポジティブな側面


しかし、歳をとることは悪いことばかりではありません。歳とともに、知識や知恵、経験を獲得していくことができます。失われた力は、年齢とともに新たに獲得した能力でカバーすることができ、実際に生活を送る上で何の支障も感じていないという方も数多くいらっしゃいます。

私は、高齢の患者さんの診療を専門とする医師ですが、血圧の薬一つ飲んでいるだけで、家族や友人、近隣の方などとの社会生活を幸せに送っていらっしゃる高齢者の方をたくさん診療しています。中には、90歳や100歳でクロスワードパズルやチェスなどを楽しまれる方もいます。

また、私自身、患者さんたちから多くのことを学ばせていただいています。歴史、政治、人生の楽しみ方。自分の経験を後世に伝え、後世を育てることは、歳を重ねた方にしかできないことだとつくづく感じています。孫やひ孫との出会い、新たな友人との出会い。長生きをすることでこそ経験できた、新しい発見もたくさんあるようです。

防げない老化や病気があることは認めなくてはいけませんが、防げる老化や病気があることもまた事実です。防げないことにまで頭を悩ませず、防げるものを確実に防ぎ、上手に自分の身体と付き合っていく。そうすることで、社会生活が後悔なく楽しめるのではないでしょうか。


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参考文献
1    Mojet J, Christ-Hazelhof E, Heidema J. Taste perception with age: Generic or specific losses in threshold sensitivity to the five basic tastes? Chem Senses 2001. DOI:10.1093/chemse/26.7.845.
2    Boyce JM, Shone GR. Effects of ageing on smell and taste. Postgrad. Med. J. 2006. DOI:10.1136/pgmj.2005.039453.
3    Danaei G, Vander Hoorn S, Lopez AD, Murray CJL, Ezzati M. Causes of cancer in the world: Comparative risk assessment of nine behavioural and environmental risk factors. Lancet 2005. DOI:10.1016/S0140-6736(05)67725-2.
4    厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/index.html (accessed Oct 4, 2020).
5    A and B Recommendations | United States Preventive Services Taskforce. https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation-topics/uspstf-and-b-recommendations (accessed Oct 4, 2020).
6    3 高齢者の健康・福祉|平成29年版高齢社会白書(概要版) - 内閣府. https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/gaiyou/s1_2_3.html (accessed Dec 28, 2019).
7    Yang AC, Huang CC, Yeh HL, et al. Complexity of spontaneous BOLD activity in default mode network is correlated with cognitive function in normal male elderly: A multiscale entropy analysis. Neurobiol Aging 2013. DOI:10.1016/j.neurobiolaging.2012.05.004.