人生100年時代の今、定年を迎えた後、どう働いてどう生きるかは誰にとっても気になるテーマです。『はたらくすすむ』の主人公・長谷部進は、長年働いた下着メーカーを定年退職した矢先、妻に乳がんで先立たれてしまいます。そんな進がなぜか、セカンドキャリアの場として働くことになったのは風俗店。偏見が持たれがちな業界ではありますが、そういう場所だからこそ見えてくるものもあるようです。

『はたらくすすむ(1)』(ヤンマガKCスペシャル)


小さな下着メーカーの営業として40年間働き続けてきた長谷部進(66)。本人は家族のためにと仕事に打ち込んできた一方で、妻や子どものことを十分に顧みれておらず、次第に家族と距離ができていきました。定年退職後、妻に乳がんで先立たれてしまい、後悔の日々を送っています。「妻になにもしてやれなかった」と悔やんでも、もうそこには妻はいません。四十九日が過ぎても仏壇の前で話しかけている進ですが、同居する娘で漫画家の美織によると、生前の母とは仲良さそうには見えず、何を考えているのかわからない父だったとのこと。

 

 

娘に鬱陶しがられていることに気づいた進は、「シニア アルバイト」で検索して見つけた、清掃員のアルバイトに応募します。「簡単な店内清掃業務」で、「高年齢(50代〜70代)歓迎」とありました。

 

ところが、アルバイト先の店を訪れた進は、そこで大きな衝撃を受けることに。なぜならそこは、風俗店(ピンサロ)だったからです。一度も風俗を利用したことがなかった進にとって、目の前で想像を絶する光景が繰り広げられていました。

 

しかし、気が弱くて責任感が強い進は、応募をしたのは自分の方であり、店長に「バイトが辞めちゃって困ってるんですよね」と言われてしまったため、そのままズルズルと仕事をやる羽目に。一方、店のバックヤードでは女の子たちが下着姿で赤裸々なトークを繰り広げ、客の悪口で盛り上がっていました。客は客で、妻帯者だったり、女の子に横柄な態度を取ったりと、風俗店とは全く縁のない生活を送ってきた進の理解の範疇を完全に超えています。

 

勤務初日、売上ナンバーワン嬢に「なんでこんなところ来たん?」と言われ、考え込んでしまう進。この特殊な空間で行われる光景に戸惑ってはいたものの、女の子たちはたくましく、彼女たちなりにプライドを持って一生懸命働いていることに気づきます。そして、まだここで何もしていない自分にも。

 

ずっと普通の会社員だった進ですが、逆に店や女の子たちから見れば異質の存在。はじめは「若い女の子の裸目当て?」などと警戒されますが、進の実直さや、細やかな気遣いに次第に心を許していくようになります。進もまた、女の子や客と接するうちに、それぞれに人生があり、いろんな思いを抱えながら働き、生きていることに気付かされます。その過程で、妻や子どもを大事に思ってきたはずなのに、いつしか距離ができてしまったのはなぜなのかと、自分の人生を振り返ることにもなっていきます。一方で、進が社会人生活で身につけたスキルがこの店で生かされることも意外に多く、Excelを使いこなす姿などはサマになっています。

 

はじめは今までの自分とはあまりにもかけ離れた世界だったゆえに、偏見を持っていた進ですが、そこで腰を据えてがんばると決めてからは常に謙虚な姿勢でさまざまなことを感じ、学び取っていきます。そんな進の姿を見ていると、自分の環境がどうであれ、謙虚に真面目に働くことの大切さが身に染みます。また、自分が正しいと思いこんでいた価値観も、あくまでそれは一つの見方に過ぎず、人や立場が変われば、全く違うものになることにも気付かされます。進が働いている風俗店の名は「世界観」。この作品を読んでいると、何歳からでも新たな学びを得ることはできるということと、年齢を重ねるにつれ、凝り固まってしまいがちな価値観が自分の中にもあることに気付かされます。風俗店が舞台なので、少々刺激的な場面もありますが、ぜひ偏見を持たずに手にとってみてほしい作品です。
 

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『はたらくすすむ』

安堂ミキオ 講談社

定年退職後、妻に先立たれ、茫然とした日々を送る長谷部進。一緒に暮らす娘・美織に煙たがられたことをきっかけに、清掃員のアルバイトに応募するが……、そこは風俗店だった!お金のために裸でイチャつく風俗嬢にはじめは嫌悪感を拭えない進。だが、彼女たちのたくましく生きる姿には、40年間の真面目一徹なサラリーマン人生では得られなかった学びがあった――。定年新人アルバイトのチャレンジ、はじまる!