食べ物を飲み込んだり、発声したり、呼吸をしたりと、私たちの「のど」は常に忙しく働いています。生きる上で欠かせないのどにできてしまうがん「中咽頭がん」には、どんな治療が行われるのでしょうか。がんを正しく恐れるための知識を得るべく、耳鼻咽喉科専門医の前田陽平先生にお話しを伺います。

1.中咽頭がんは何科で診てもらうの?


耳鼻咽喉科です。最近では耳鼻咽喉科・頭頸部外科と標ぼうしている病院も多いです。他の診療科の先生方にもご協力いただいて診療することももちろんありますが、まずは耳鼻咽喉科に受診していただくことになりますね。

診察では口の中を見たり、のどの状態を確認するためのファイバースコープ、CT検査、組織を一部とって調べる、いわゆる“生検(せいけん)”と呼ばれる病理検査などを行います。ファイバースコープは、耳鼻咽喉科では主に鼻から細いものを入れて中の状態を内視鏡で確認するものですね。また、必要に応じてMRIやPET-CTなどを使うこともあります。

費用については診察内容によってもケースバイケースなので、なんとも言えないのが正直なところですね。


2.中咽頭がんはどんな治療をするの?


手術、放射線治療、抗がん剤治療などを組み合わせて行います。

一般的には手術がもっとも負担が大きいというイメージがあるかもしれませんが、中咽頭がんではそうとも限らないんですよ。放射線治療では口の中全体が火傷のようになってしまうので、こちらの方がむしろ大変だったりするんです。

中咽頭がんは「口中やけど」状態も…医師が目指す治療とQOLの両立とは_img0
 

私たちは普段、口内炎がひとつできただけでも結構つらいですよね。放射線治療はあれが口の中にたくさんできるようなものなので、食事をすることがとても困難になってしまう場合もあります。もちろん同じ中咽頭がんでも部位によっては手術の方が負担が大きいケースもありますから、これはケースバイケースになります。HPV関連の中咽頭がんは主に扁桃がん(扁桃腺のがん)と舌根がん(舌根部のがん)ですが、一般的には扁桃がんに比べて舌根がんは手術の後遺症が大きいことが多いです。

「のど」は人間が生きていく上でどうしても必要な部分ですから、中咽頭がんの治療では「QOL(Quality of Life)」つまり“生活の質”が確実にある程度落ちてしまいます。がんに対する治療効果をきちんと担保することが前提ですが、医師としては患者さんの生活の質をできるだけ確保することも考えて、どの治療法が体にも精神的にも負担がかからないかという視点も持ちながら、治療方針を決めていくことになります。

 

3.後遺症や再発の可能性はある?


手術の場合は、食事や会話に問題が出ることがあります。具体的には食事をするとむせこんだり、会話で言葉が伝わりにくかったりします。がんが頸部リンパ節に転移して頸部も手術した場合は、顔のむくみや頸部のこわばりなども考えられますね。

放射線治療を行った場合は、声がれ、粘膜炎などが出た後に、唾液の分泌障害により口のなかが常に乾いたりすることもあります。

がんですから、局所再発や転移再発などの可能性はありますね。ですから、治療終了後も数年間の経過観察や必要に応じた検査が行われます。

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前田陽平 Yohei Maeda

大阪大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科。耳鼻咽喉科専門医・指導医・医学博士。アレルギー学会認定専門医・指導医。Twitterでも耳鼻科や医療関連の情報を発信している。
【Twitter】ひまみみ 耳鼻科 前田陽平(@ent_univ_)


取材・文/金澤英恵
イラスト/徳丸ゆう
構成/山崎恵

 

【全4回】
第一回「HPVを正しく恐れるための基礎知識。なんと100以上のタイプが存在!」>>
第二回「HPVワクチンは男性も打つべき!中咽頭がんとの関係を医師が解説」>>
第四回「HPVワクチンは副作用が…という人に伝えたい、安全と断言できる科学的根拠」