「HPVワクチンは副作用が...」という人に伝えたい、安全と断言できる科学的根拠_img0
 

がんの要因となるHPVの感染を防ぐ手段として知られているのが、HPVワクチンです。感染リスクは減らせるに越したことはありませんが、ワクチン接種で心配なのが副作用の問題ではないでしょうか。

「HPVと中咽頭がん」最終回では、ワクチンで本当に感染が防げるの? 接種しても本当に大丈夫なの? といった素朴な疑問を耳鼻咽喉科専門医の前田陽平先生にお聞きするとともに、きちんと知っておきたいHPVワクチンの基礎知識を教えていただきます。

 

1.HPV感染そのものを防ぐにはどうしたらいい?


ワクチン以外では、HPVを高い確率で防ぐことは難しいと思います。性行為はコンドームを使用することである程度感染を減らせると考えられています。中咽頭については性行為後にうがいをしたりすることでも多少は感染確率を減らせるかもしれません。しかし、圧倒的に有効なのはワクチンですね。

HPV関連の中咽頭がんの発症において、飲酒はあまり関係ないとされていますが、喫煙習慣は多少影響すると言われています。ただ、ほとんどが性行為による感染ですから、煙草もお酒もやらないという方ももちろんHPVに感染し、発がんするリスクはあります。感染リスクを減らすためには、やはりワクチンの接種がもっとも効果があります。


2.HPVワクチンの「2価」や「4価」ってナニ?


HPVには100種以上の型があり、全部に番号がついています。ワクチンはその中でもがん化を起こしやすい型を対象としていて、2価や4価といった数字はターゲットとなる型の合計数を表しているんです。ワクチン開発の製薬会社がつけた商品名で呼ばれることもありますね。簡単にご説明しましょう。

・2価ワクチン(商品名:サーバリックス)
子宮頸がんの主要な原因となる16型・18型に対応

・4価ワクチン(商品名:ガーダシル)
16型と18型に加え、尖形コンジローマの原因となる6型と11型の4つの型に対応

・9価ワクチン(商品名:シルガード9)
16型・18型、6型・11型に加え、31型、33型、45型、52型、58型に対応。
子宮頸がんの原因となるほとんどのHPV型を網羅

9価ワクチンは、これが普及すれば子宮頸がんの90%、あるいはそれ以上を予防できると期待されています。ただ、現状では多少コスト高なので、2価・4価・9価、どれを接種するかは担当の先生とも相談しながら決めることになると思います。

3.いつ、どんなタイミングで接種すべき?


HPVワクチンは、3回の接種が必要です。「子宮頸がんワクチン」としての、法に基づく標準的な接種は、中学1年生となる年度に以下の通り行うこととなります。

・2価ワクチン(サーバリックス)
1回目の接種を行った1ヵ月後に2回目を、6ヵ月後に3回目を接種

・4価ワクチン(ガーダシル)
1回目の接種を行った2ヵ月後に2回目を、6ヵ月に3回目を接種

小学校6年生〜高校1年生相当の女の子は、公費によって接種費用は無料です。高校1年生は9月末までに接種を始めれば無料の対象となりますが、もし過ぎてしまって3回打てないという場合でも全く意味がないということはありませんから、自治体に問い合わせるか、産婦人科、あるいは小児科で相談してみてください。とにかく、まずは1回打つのが大切とされています。接種回数が0回と1回では、抗体のできかたの差がとても大きいのがこのワクチンの特徴だからです。もちろん、2回、3回と打つことができるのならそれが望ましいことは言うまでもありませんが。

HPVワクチン接種についてはこちらのサイトの記事がわかりやすいので、ぜひ参考にしてみてくださいね。

【みんパピ! みんなで知ろうHPVプロジェクト】 
ワクチン接種を決めたあなたへ

4.副作用が心配。本当に安全なの?


HPVワクチンの接種によって、注射したところに一時的な痛みや腫れなどの症状が約8割の方に生じるとされています。また、注射時の痛みや不安のために失神(迷走神経反射)を起こした事例が報告されていますが、これは接種した直後に30分ほど安静にすることで対応することができます。

ここだけ紹介すると心配になってしまうかもしれませんが、私は医師として「HPVワクチンは十分に安全である」と言うことができます。なぜなら、信頼性の高い科学的根拠を示す“コクランレビュー”で安全性が証明されているからです

コクランレビューというのは、膨大な臨床研究を統合・解析したもので、医師がもっとも信頼するエビデンス、つまりは科学的根拠です。そのコクランレビューには、HPVワクチン接種によって接種部位の短期的な反応は増加するものの、全身に現れる事象や重篤な副反応は増加しない、と報告されています。

世界保健機関(WHO)も、世界中の最新データを継続的に評価していて、HPVワクチンの推奨を変更しなければならないような安全性の問題は見つかっていない、と発表しています。


定期接種が認知されていないHPVワクチン


小学6年生から高校1年生の女の子は無料で3回の定期接種が受けられますが、多くの自治体は積極的な案内を行っていないのが現状です。そのため、日本産科婦人科学会では「自治体が行うHPVワクチンが定期接種対象ワクチンであることの告知活動を強く支持します」という声明を出しました。医療の世界において、診療科を束ねる学会が声明を出すというのは、相当に重みのあることなんです。

「HPVワクチンは副作用が...」という人に伝えたい、安全と断言できる科学的根拠_img1
 

国際的には男女ともに接種することが常識的になってきましたが、日本のHPVワクチン接種率は先進国の中でもずば抜けて低く、アメリカが40%程度なのに対して日本は0.6%です。このままでは先進国で唯一、子宮頸がんが残る国として名を馳せてしまうことになるのではと危惧しています。もちろん、中咽頭がんについてもHPVワクチンによる予防効果は十分に期待されていますから、この接種率の低さについて、耳鼻咽喉科医として胸を痛めています。

HPVワクチンのメリットは、なんといってもがんを防ぐことができること。デメリットは特にないといっていいでしょう。副作用が怖いから打ちたくない、なんとなく打っていない、子どもに打たせたいけれど迷っている、いろいろな方がいらっしゃると思います。ですが、HPVワクチン接種を検討する際の重要なポイントとして、

・HPVワクチンは他の予防接種と比べても特別にリスクが高いとする根拠は乏しく、安全性が確立されている
・国際的には接種するのが常識である
・何より、がんを予防できる数少ないワクチンである

この3点については、ぜひ知っておいていただけたらと思いますね。

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前田陽平 Yohei Maeda

大阪大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科。耳鼻咽喉科専門医・指導医・医学博士。アレルギー学会認定専門医・指導医。Twitterでも耳鼻科や医療関連の情報を発信している。
【Twitter】ひまみみ 耳鼻科 前田陽平(@ent_univ_)


取材・文/金澤英恵
イラスト/徳丸ゆう
構成/山崎恵

 

【全4回】
第一回「HPVを正しく恐れるための基礎知識。なんと100以上のタイプが存在!」>>
第二回「HPVワクチンは男性も打つべき!中咽頭がんとの関係を医師が解説」>>
第三回「中咽頭がんは「口中やけど」状態も…医師が目指す治療とQOLの両立とは」>>