ファッションのみならず、美容にエンタメ、時事問題etc.……、幅広い分野にわたって愛のある毒舌(?)を繰り広げ、常に撮影現場を笑いの渦に巻き込んできた地曳いく子さん。そのユーモア溢れる語り口と鋭い観察眼が、本の随所に光る『若見えの呪い』。そして、折しもコロナ禍の前後に書き進めた『日々是混乱(ひびこれ こんらん)』。2冊を続けて上梓したタイミングに、新著への思いやこれからのファッション、混沌とした時代を生きる術などについてお話を伺いました。

 

1959年生まれ。スタイリスト。「non-no」をはじめ、「MORE」「SPUR」「Marisol」「eclat」「Oggi」「FRaU」「クロワッサン」などのファッション誌で30年以上のキャリアを誇る。近年ではテレビやトークショーなどでも活躍する。 
著書に『50歳、おしゃれ元年』『服を買うなら、捨てなさい』『ババア上等! 余計なルールの捨て方 大人のおしゃれDo! & Don't』(槇村さとるさんとの共著)『若見えの呪い』など多数。

 


わずか3年で世の中が大きく変わってしまった


地曳さんが今から3年前に出版した単行本、『脱「若見え」の呪い “素敵なおばさま"のススメ』。その前著に加筆修正を加えた文庫版が秋に出版されました。素敵なおばさまになるための的確なアドバイスに加え、笑いのツボをつく言葉が満載の内容に、読後は何だかパワーチャージされて元気になったという声が続々と届いているそう。

「読者の方々や友人から、電車の中で読んでいたらうっかり駅を乗り過ごしてしまった、という嬉しいクレームをよくいただきました(笑)。今回前著に加筆修正を加えたのは、前著を出してからわずか3年の間に、コロナ禍によって世の中はもちろん私の生活が大きく変わってしまったから。たとえば好きでよく見に行っていたライブ。今は業界全体がすっかり自粛モードになってしまっています(※2020年11月時点)。だから参加したとしても、観客はずっとマスクを着けていなければいけないし、声を上げてはいけない。許されるのは、拍手するとか口を閉じたまま静かにハミングするとかくらいなんです(笑)。大好きな歌舞伎だってそう。以前行った舞台では、花道沿いの席がいくつか封印されていたり、お弁当を食べるのも幕間に話すのもダメだったり。エンタメ業界に限らず、外食産業もいま大変なことになっていますよね。今はみんな少人数でしか食事に行かないし、外食の回数だって減っているわけで。ちょっといいレストランの常連だった友達も、今は子供や孫に万一のことがあってはいけないからと、今年になってから全く外食をしなくなったと言っているほどです。そんな風に、日常の慌ただしさから現実逃避をするための場所がどんどん減っていき、これまでの世の中のキラキラ度が半つや消しくらいになってしまった。とはいえ、『若見え』の方はビフォーコロナの話が中心だから、まだ私のテンションが高めなんです(笑)」


いっぽう『日々是混乱(略して、ひびコレ)』の方は、まさにコロナ禍に突入する約1年前からアフターコロナにかけて書いたウェブ連載をまとめたもの。 その少し憂いを含んだ内容に、いつもパワフルな地曳さんのテンションが低い、と地方の読者の方から若干心配もされたのだとか。

「これまで、週3~5日は何かしら華やかなイベントに足を運び、国内外を問わず旅行にもしょっちゅう出かけていて。仕事もプライベートも人の3倍速くらいで生きてきたような私が、更年期かまたは厄年のせいなのか、体力も気力も落ちてしまったことがありました。大好きだったお出かけが嫌になってじっと家に引きこもり、何事にもやる気スイッチが入らない。そんな自分を仕方ないと諦めて、受け入れるようになったら少しずつ元気になってきたのだけれど、そこへきて今度はコロナ禍に。そんな頃に書いていたから、前作とは当然テンションが違うでしょう。だけど、このコロナ禍のおかげで気付いてしまったのよね。私はもちろん、誰もがいつでも元気でいられるわけではないし、それが決していけないことではないということに。考えてみたら、こんなに“明るさ№1!”みたいな世の中になったのは、第二次世界大戦以降のことなんじゃないかなと思うんです」
 

洋服はあえて少なく準備するくらいでちょうどいい


今はそんな時代の価値観が変わる潮目のときだという地曳さん。これからファッションはどう変わるのでしょうか?

「私もビフォーコロナの頃は、何だかんだいってもまだ頑張って小綺麗にしようとしていたし、職業柄シーズンごとに服や小物を買っていました。なぜなら、おしゃれやメイクをするのは自分のためと言いながら、やはり人とのコミュニケーションを円滑にするためというところも大きいじゃないですか。ところが今回のことで外に出る機会が激減してしまった。冠婚葬祭はおろか、今や仕事でもファッションブランドのパーティーなんて一つもない。これまで週の半分は打ち合わせや展示会、リース、撮影などで外に出ていたのに、その機会すら少なくなっているんです。それなのに、新しい服を手に入れたところで『この服を取材や打ち合わせであと一体何回着られるんだろう?』と冷静に思うわけです。そして、改めて『私はなんてたくさん洋服を持っていたんだろう』と。だから昨年『おしゃれは7、8割でいい』という本を出したけれど、今はもっと減らして6割程度でいいんじゃないかと思うようになりました」

このコロナ禍において分かったこと。それは10割の服を完璧に揃えておくよりも、あえて少なく準備をしておいて、精神的にも金銭的にも少し余力を残しておいた方がいいということ。そうすれば、どんな変化にも柔軟に対応できるようになるはずだからと語ります。

 
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