挑み続ける女帝が示す、自分軸で生きる強さ

そんな彼女がまだ20代前半という若さでありながら、ベテラン扱いされている現状に対してコメントしたのが冒頭の言葉です。五輪のチャンスを逃し続け、今なおリンクに立つ元世界女王には称賛の声もあれば、奇異の目も降り注ぐもの。けれど、そうした雑音を軽やかにスルーし、女帝は自分のやるべきことに集中しています。その何にも惑わされない生き方が、若さという自分ではコントロールできないもの、必ず誰もが失っていくものに振り回されている現代の価値観に一石を投じているのです。

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2018 GPシリーズ ロシア大会にて。写真:ロイター/アフロ

「もういい年なんだから、もっと現実を見たら?」「いい年して、短いスカートなんて穿いて恥ずかしくないの?」――世の中には、他人の生き方に余計な口を挟みたがる人がいて。そんな声に心乱されず、自分らしく生きていけばいいと頭ではわかっているものの、つい社会の規範や世間の視線に縛られて、縮こまってしまう人も少なくありません。

 

いい年だから。いい年なのに。それらの言葉は、一見もっともらしく聞こえますが、「いい年」の定義なんて人それぞれ。いくつになったからと言って何かを手放さなければならないというルールはありません。もし仮にそんなものがあるとしたら、年齢を重ねることは可能性を失い続けるということ。現実としてそういう側面もゼロではありませんが、だからと言ってそんな呪いの言葉で自分や他者を規定しても、人生がつまらなくなるだけ。

実際、トゥクタミシェワ選手は年齢を重ねるほどに、どんどん魅力的になっています。世界のタイトルを手にしたときはショートプログラムに1本だけだったトリプルアクセルも、今やショートとフリースケーティングあわせて計3本も投入するように。すでに練習では4回転ジャンプも成功済み。もし彼女がISU認定の公式試合で4回転ジャンプに成功すれば、女子史上初めて20代で4回転を跳んだジャンパーになります。

フィギュアスケートの世界では、技術で若手に劣る分、演技構成点でカバーするのがベテランの戦い方。けれど、臆することなく高難度ジャンプに挑戦し続けるトゥクタミシェワ選手を見ていると、表現の面はもちろん、技術でも年下の10代と渡り合おうとしている気概を感じます。そして、そんなトゥクタミシェワ選手の姿に、まだまだ自分だって何かできるんじゃないかというファイトがわいてくるのです。

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2019 フィンランディア杯 女子FSでの演技。写真:Newspix24/アフロ

自分にリミッターをかけていたのは、他でもない自分自身。周りがいくら嘲笑おうと、自分がやりたいなら納得いくまでとことんやればいい。人生のハンドルを握っているのは、いつだって自分自身なんだから。そんな自分軸で生きる強さを、トゥクタミシェワ選手は私たちに教えてくれます。

元世界女王でありながら、いまだ五輪出場の経験がない彼女は、北京五輪までは現役を続けると明言し、研鑽に励んでいます。大国ロシアにはジュニアにも有力選手が控えており、仮にトゥクタミシェワ選手が4回転をマスターしたとしても、五輪出場が確実とは言いがたいもの。それでも、トゥクタミシェワ選手はあきらめません。競技者であるなら、1%でも可能性がある限り挑戦する。優雅な女帝の微笑みには、そんな勝負師の気骨を感じます。

そして仮に五輪に出られなかったとしても、彼女の輝かしいキャリアが損なわれることはありません。できたことも、できなかったことも、すべてが女帝のティアラを飾る宝玉です。

それは私たちもそう。年齢、外見、社会的地位、生育環境。あれこれ言ってくる人がいなくなることは残念ながらないでしょう。だからこそ、そんな声に足をとられていたらもったいない。リーザのように「それが何か?」と微笑んで、自分の信じた道を突き進めばいい。私たちの人生は、外野から野次を飛ばしてくる人のためにあるわけではないのです。

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2018 GPファイナル 女子SPにて。写真:ZUMA Press/アフロ
構成/山崎 恵

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