現実を受け入れられない「レスられ妻」のプライド

「レスられ妻」の告白。セックスレスであることを隠し続けた理由スライダー2_1
「レスられ妻」の告白。セックスレスであることを隠し続けた理由スライダー2_2
「レスられ妻」の告白。セックスレスであることを隠し続けた理由スライダー2_3


「そう……なんだ。かなり前って、その、いつから?」

想像さえしていなかった、突然の告白。しかし早希はできる限りの平静を装った。大げさに驚くと余計に絵梨香を傷つける気がしたからだ。

「そうだなぁ。もう3年……いや、4年かな」

絵梨香は「改めて数えるとヤバイね」と自虐的に笑う。早希はどう反応していいかわからず、ただ黙って俯いた。

いや、正直に言えば自分だって同じくらいご無沙汰だ。もうずっと彼氏もいないし、ハプニングが起きていい場面ですら何も起きず自信喪失したばかりでもある。しかしそれとこれは訳が違う。絵梨香は既婚者で夫婦仲も良いはずなのに、どうして……?

「抱く気になれないって言われたのよ」

まるで心の声を読んだように、彼女は投げやりな口調で答えた。絶句する早希をよそに、絵梨香は淡々と言葉を続ける。

「疲れてるとか忙しいとかで、徐々にしなくなって。私たち、子どもは作らないって決めてるから無理する必要もないしね。……そしたらいつの間にか、できなくなってた。そういうムードになれないのよ。思い切って私から誘った夜も断られたわ。そんな気になれないって」

セックスレス自体は、まったく珍しい話ではない。世帯年収1000万円を超える夫婦のおよそ半数が該当するという統計もあるらしい。

けれどまさか、絵梨香が。まったく知らなかった。彼女の結婚生活は順調なのだと思い込んでいた。問題を抱えた様子なんて、これまで微塵も見せなかったから。

しかしそのとき、ふと早希の脳裏に昔の記憶が蘇ってきた。

新婚早々、絵梨香の夫が浮気した時のことだ。当時も彼女はことさらに騒ぎ立てたりせず、数日後には「グラフのダイヤで解決したわ」としれっと言い放ち、皆で目を丸くしたのを覚えている。

「さすが絵梨香」「器が違う」と称賛され、本人もネタにして笑っていた。けれどあの時だって、絵梨香が傷ついてないわけがない。考えて見れば当たり前だ。

昔も今も、絵梨香はただ「苦しい」と口に出せなかっただけなのだ。

「ごめんね、絵梨香。ぜんぜん気付いてあげなれなくて……」

こんなにも長く一緒にいるのに、親友なのに。美穂のことも絵梨香のことも、肝心なことは何ひとつ知らなかった。わかってあげられていなかった。

心の中で猛省していると、そんな早希に気づいた絵梨香が「それは違う」と遮った。

「知らなくて当然よ。バレないようにしてたんだから。自分が『レスられ妻』だなんて……悔しいし、怖かったの。なんていうか、完璧じゃなくなってしまう気がして」