40歳という節目で、女性は自らの生き方を振り返るものではないでしょうか。
「こんなはずじゃなかった」と後悔しても過去は変えられず、心も身体も若い頃には戻れない。
これは立場の異なる二人の女性が、それぞれの人生を見つめ直す物語。
***
優しい夫に怯える妻
「……美穂、大丈夫か?」
腕の湿布を張り替えていると、背後に夫が立っていた。反射的に身体がこわばる。
「痣、薄くなってきたな。本当に良かった。大したことなくて……」
貴之は悲痛な声でそう言うと、妻の腕にそっと包帯を巻きつけた。
先日スマホを水没させられ夫婦で揉み合いになった翌日、美穂の両腕には、彼の爪痕と手指の形をした青い痣がところどころ浮かび上がった。
以来、夫は優しい。
傷が治るまでは安静にしていて欲しいと、昨晩は仕事の合間に手作りの夕飯まで作ってくれた。シンプルな焼きそばだったけれど、大皿に大盛りに盛られた焼きそばを家族3人で取り分けていたとき、湊人は楽しそうに笑っていた。
「掃除機くらいあとで俺がかけるから、美穂は今日もゆっくりしてろよ。そうだ、予約してた最新のiPhoneも届いたって連絡がきたよ。あとで取ってくるからな」
スマホも戻ってくるし、夫は反省している。なのに、自分に微笑みかけるその目をうまく直視できない。
「……美穂、ごめんな。愛してるよ」
貴之に抱きしめられ、美穂はやっと「うん」とだけ答えた。
まくり上げたニットの袖を、包帯が見えなくなるまで伸ばしながら。
【写真】可愛い子供に裕福な生活……自由のない専業主婦・美穂は幸せ?
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