「男の妬み」を買ってしまった女

モラハラ夫の狂気...離婚したくない男が、深夜に起こした予想外の行動スライダー2_1
モラハラ夫の狂気...離婚したくない男が、深夜に起こした予想外の行動スライダー2_2
モラハラ夫の狂気...離婚したくない男が、深夜に起こした予想外の行動スライダー2_3

「どうした?ぼーっとして」

聞き覚えのある声に立ち止まると、目の前に大きな身体があった。

気づけば同期の堂島が、行く手を阻んで冷ややかにこちらを見下ろしている。早希は反射的に構えた。……この男とはできるだけ関わりたくない。

「別に。大丈夫」

それだけ言って通り抜けようとした。しかし堂島はすんなり逃してくれない。

「なんだよ、冷たいなぁ。出世したからって」

「何それ……」

この男のデリカシーのなさは今に始まったことじゃない。もう慣れっこだし、普段の早希なら面倒を避けて無視していたはずだ。しかし先日も「子どももいないのにママ雑誌の編集長かよ」なんて嫌味を言われたところだったから、カッと頭に血が上ってしまった。

「あのさ、私は別にママ雑誌の編集長なんかやりたくない。自ら望んだワケじゃないのよ。だから絡むのやめてくれない?」

我慢していた本音が溢れる。つかえが取れたように胸がスーッと軽くなった。……しかし次の瞬間、早希は背筋をヒヤリと凍らせた。堂島が鋭い眼光でこちらを睨んでいたのだ。

――しまった。

後悔に襲われ視線を泳がせる。男の嫉妬を甘く見てはいけない。そんなことは、17年以上におよぶ社会人生活で重々わかっていたはずだったのに……。

案の定、堂島は低く唸るような声で早希を責めてきた。

「だったら辞めろよな」

男の身体の大きさも相まって、強い口調に思わず怯む。声を出せず黙っていると、堂島はさらにヒートアップした。

「嫌なら辞退しろよ。やる気のない奴に編集長なんかされたらメンバーが迷惑だろうが」

――何よ……なんでコイツにそんなこと……!

心ではそう叫んだものの、堂島の言っていること自体は正しい。正論だ。やる気もないのに編集長の座に就くなんて、確かに読者にもメンバーに対しても失礼だ。悔しいが、何も言い返せなかった。

しかし早希だって、堂島に言われるまでもなく自ら辞退するつもりだった。

モラハラ夫から逃げてきた親友・美穂を励ます中で、女同士、支え合える心強さを痛感した。女に必要なのはカテゴライズじゃない。属性で区別するのではなく、立場を超えて理解し合える関係を築いていきたい。そう強く思ったからだ。

ただそれを今ここで堂島に言う必要はないし、順序だって違う。意志を伝える時は上長が先だ。そのためにもまずは転職の件も含め、目指すキャリアについてしっかり考え直さないと……。

ところがそんな風にして早希が返す言葉を迷っている間に、堂島は苛立ちを露わに足音を立てて去ってしまった。

――余計なこと言っちゃった……。

遠ざかっていく堂島の後ろ姿。言いようのない不安と落ち着かなさを感じ、早希は小さく身体を震わせた。