トラウマは、なんらかのつらい出来事を体験することによって生じます。子ども自身が危険な状態にあることを認識していること、極度の無力感を感じていること、さらにそのときのつらい記憶が保持されることで、トラウマは生じやすくなります。
ある出来事が子どもにとってのトラウマになるか否かは、その前後、とくにその出来事を体験したあと、子どもが養育者との関係の支えのなかで安心感を得られるか、心身の状態をほどよく調節できるかが大きく影響します。
イギリスの精神分析家であるウィニコットは、「親子は一つのユニットである」と述べています。ユニットとして親が子どもを適切に調節するプロセスは、子どもが自分で自分を調節するメカニズムとして、徐々に子どものなかに内在化されていきます。養育者自身の安定と、子どもが安心できる関係は、まだ自己調節が十分にできない子どもにとって、つらい出来事の記憶のされ方を左右する重要な要因なのです。
子どもの場合、大人は「これくらいのこと」と思うような出来事であっても、その後のケアのあり方によってはトラウマになりうるのです。そのような意味で、子どものトラウマは累積的な性質をもっているといえます。
子ども時代の逆境が及ぼす影響
「逆境が人を強くする」「逆境を乗り越えてこそ成長する」などと、困難な状況のなかに置かれることを肯定的に語る声もあります。しかし、逆境のなかで育つ子どもがさまざまな問題をかかえやすくなることは、数々の研究で明らかになっています。
【小児期逆境体験の例】
・虐待されている
・家庭が機能不全に陥っている(家庭内暴力、養育者の薬物乱用や精神疾患、両親の離婚や別居など)
【子どもの発達への影響】
・神経生理学的な影響(攻撃的になる/衝動性が高まる/不安が強まるなど)
・心理社会的な影響(学校になじめない/自己肯定感が低いなど)
成人後に至るまで逆境体験の影響は続く
子どものトラウマをより広くとらえるうえで注目したいのは、子ども時代の逆境的な体験が、生活上のさまざまな問題をかかえるリスクをどれくらい高めるのかという点です。
アメリカの調査研究では、成人後に至るまで心身にダメージが残りやすいこと、仕事や家庭生活などにも支障をきたしやすくなること、その結果、早世にまで結びつきやすいことなど、小児期逆境体験の影響は長く続くことが明らかになっています。
逆境のなかで育つ子どもに必ずトラウマがあるわけではありませんが、少なくともトラウマを負いやすいとはいえるでしょう。子ども時代に負ったトラウマが長く影響し続けるのです。
【トラウマの長期的な影響】
●病気と障害
・うつ病、自殺、PTSD
・薬物およびアルコール乱用
・心臓病
・がん
・慢性肺疾患
・性感染症
●健康リスク行動の増加
・喫煙・飲酒・薬物の使用
・拒食や過食 など
●社会的な影響
・学歴や職歴への影響
・10代の妊娠が増える
・福祉サービスの利用、医療費が増える
・平均寿命が短くなる
・次世代にも小児期逆境体験が受け継がれる
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