解決を急がず寄り添っていく
トラウマは、子どもが自分の感情を理解し、コントロールする能力を損ないます。感情の理解・管理がむずかしい子どもは、引き金がひかれると、なぜそうなるのかわからないまま、ただひたすら強烈にいやな感じを経験します。そしてそのストレスを身体や行為で表現するのです。
発達の途上にある子どもにとって、行動はコミュニケーションの手段でもあります。子どもが言葉を使って感情や経験をわかちあうコミュニケーションができるようになるまでには、子どもに接する大人が子どもの行動の水面下にある感情を照らし、言葉に置き換えて子どもに返すというくり返し(感情の反映)が必要です。
行動面の問題を解決すること、させることを急ぎがちですが、もっとも大切なのは、ただそばにいて、子どもが自分の感情のいろいろに気づき、理解し、調節するのを助けることです。子どもの話を聞き、理解し、共感し、経験を認めて重荷をわかちあうことが子どもの力になるのです。
【子どもに指示する前に必要なこと】
① 子どもの状態と「波長合わせ」をしていく
子どもの状態をトラッキング(非言語的なサインを追うこと)し、波長合わせをしていきます。すると、子どもの行動の水面下にある本当の気持ち(「本当は○○したかった」など)が現れてきます。複数あればその気持ちを尊重して、ただ共にいる時間を大切にします。
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② 子ども自身が感情に気づき、それを名づけ、理解し、調節するのを助ける
行動の意味を確かめたいときは、指示ではなく、質問をしていきます。ただし「なぜ」「どうして」という言葉は、子どもが責められていると感じやすいので、使わないようにします。
感情を認識しにくい子どもには、子どもに現れている変化のサインを伝え、どんな気持ちか問いかけます。子どもが答えにくそうだったら、想像した気持ちを伝えてみて、ぴったりするか聞いてみます。
【例】「そういえば今、眉をひそめているけどどんな気持ち?」「ひょっとして質問されていやな気持ちになったのかな、と思ったんだ」
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③ よりよい対処のしかたをいっしょに見つける
同じような気持ちになったとき、今までどう対処してきたのかを聞いてみます。自分のなかにある強さに目を向けさせ、よりよい対処のしかたをいっしょに考えていきます。
【例】「イライラしたとき、いつもはどうするの?」「どうやったら、叩かないで相手に伝えられるかな?」
トラウマを持つ子どもへの接しかた
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子どもは理路整然と話せないのが当たり前
子どもは開示をしない理由がたくさんあります。「こんなことがあって……」と話し始めても、じつはなかったと否定したり、別のことを言ったりすることは性的虐待のケースでよくあることですが、性的虐待以外の場合でも自然なことです。
たとえ子どもが自分が話したことを撤回したとしても、子どもが語った出来事が「なかった」という判断は正しいとはかぎりません。
そもそも子どもは「話しても安全・安心」と思えなければ、自分の体験を開示できません。無理に聞き出そうとするのではなく、子どもの話を共感的に受け止めることが大切です。
子どもの心を守るいちばんの保護要因は、少なくとも一人の大人と、緊密かつ支持的な関係性を築けていることとされます。長くかかわれる立場にある人なら、「あなたの心や身体、人生がよりよくなっていくための道のりを、これで大丈夫と思えるところまでいっしょにいる」と伝えることで、子どもの安心感は増すでしょう。
『子どものトラウマがよくわかる本』
監修:白川美也子 1400円(税抜)
講談社
精神科医で臨床心理士でもある白川美也子先生の監修のもと、「子ども」に焦点を絞ってトラウマの原因や解決法などを解説。「児童虐待」「新型コロナウイルス感染症」といった現代的な事象にも触れながら、人生に大きな影響をもたらす子どものトラウマの全貌に迫ります。
イラスト/梶原香央里
構成/さくま健太
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