「ストレス」は人助けに変換する
「なるほど……“離活”の企画ね。それ、すごくいいアイデアね。絶対に通すわ」
WEBメディア『グレディ』のスナップ撮影後、早希が力強くそう答えてくれたとき、ここ数日ずっと美穂の心に重くのしかかっていたものが少しだけ軽くなった気がした。
先に進みたいのに、進めない。はやく自由になりたいのに、離婚問題に頭の中を占拠され、思うように身動きがとれない。
まだ始まったばかりではあるものの、離活のストレスはすでに痛いほど身に染みている。
けれど『グレディ』の読者モデルを引き受けることになり、今日のように仕事に向き合っている間は、余計なことは考えずに前向きな気持ちを取り戻すことができた。
ならばいっそ、そんな自分の離婚へむけたあれこれ、つまり「離活」を記事にすることで仕事にできないかと思ったのだ。
実際、離活関連のブログやTwitter、情報サイトは山ほどあるし、美穂も何度お世話になったか分からない。同じ思いを抱えた現場からのリアルな声は、絶対に誰かの助けになることも身を持って知っている。
ただ、仕事経験が乏しく、これまでのんびり専業主婦をしてきた美穂一人では何をどう始めれば良いのか分からない。
けれど長年の親友である早希と一緒なら……また新たな一歩を踏み出せるかもしれないと思ったのだ。
転職を決意し、運命的に同じ場所で働くことになった早希に何かしら恩返しをしたい気持ちもあった。
「……美穂は本当に強くなったね。透さんが美穂を好きになるのも分かる」
少し迷ったが、透に告白されたことも報告した。早希は少しばかり驚いた様子を見せたが、すぐに温かく微笑んでくれた。
「そんなことないよ。強くなろうと思えたのは早希やみんなのおかげだもん。そういえば、早希は年下の男の子とどうなったの?」
美穂はふと、早希が以前話していた年下のカメラマンのことを思い出した。
子持ちで所帯染みた自分と違い、今でも年齢を感じさせない華やかなオーラを放つ早希。10歳も年下の彼と恋ができるなんて、まるでドラマだ。
最近は女子トークを楽しむ余裕もなかったけれど、現役の早希の恋愛事情にも興味がある。
「あぁ……そんな話もしてたね。すっかり忘れてた」
しかし早希は、すっと目を逸らして小さく答えた。
「転職のことで私も忙しかったから……これからは会社の引き継ぎと、『グレディ』の課題も山積みだし、そういうのは後回しかな」
早口でそう言い切ると、早希はアイスコーヒーを静かに飲み干す。
たしかに、長年勤めた大企業からの転職を決めたばかりの彼女にそんな余裕はないだろう。美穂は少し反省しつつ話題を変える。
「そっか……でも忙しいとは思うけど、転職のお祝いは絶対にしなくちゃ!そうだ、この後ちょうど絵梨香と軽くゴハン食べようって絵梨香の家に呼んでもらったの。せっかくだから一緒に計画立てない?」
「ありがとう……でもごめん、この後も仕事があるの。今日は二人で楽しんで」
早希は穏やかに言ったが、何となく覇気のないその表情が美穂は少し気がかりだった。
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