これからともに長い人生を歩み、そのための家も買ったのに、その矢先に夫が事故で亡くなってしまった……。なんてことになったら、この先どう生きていいかわからず、抜け殻のようになってしまうのではないでしょうか。ハツキスで連載中の『きみとレストラン』の主人公・澄田歌も、4ヶ月前に夫を突然の事故で亡くし、呆然としていました。そんな彼女が前を向いて歩めるようになったのは、小さな頃の夢と、ある人(?)の存在あってのことでした。
澄田歌は、4ヶ月前に夫を亡くし、二人で暮らすために購入したマイホームを手放す決意をします。ファミレスで料理人のアルバイトをしている歌が、ローンの残っている家に無理して住み続けていてもいつかは首が回らなくなるからです。真っ当な判断ではありますが、歌は浮かない表情。家の売却を担当する不動産会社の営業マンにぐいぐい迫られ、「新しい人生をスタートさせましょう!!」と言われても、そう簡単に切り替えられるものではありません。
押しの強い営業マンが帰った後、歌は彼から自分の携帯番号を記したメモを渡されていることに気づくのですが、それがふわりと風で飛ばされたと思いきや飛ばされたメモを受け取ったのは、亡くなったはずの夫・きみ君でした。「なんだよあいつ! 歌ちゃんのこと絶対狙ってるじゃん!! 次来たら祟ってやる!!」なんて息巻いていますが、実際のところ、きみ君は幽霊。歌のことが気になってこの家に戻ってきていたのでした。
きみ君が突然亡くなった後、何を食べても味がせず、放心状態だった歌。幽霊のきみ君とは会話もでき、少しずつ食事も食べられるようになって元気を取り戻していきます。一方のきみ君は四十九日や納骨が終わっても消える気配はありません。また、家から少しでも体が出ると消えてしまうということもわかりました。なので、歌がこの家を売却して引っ越すことになったら、幽霊のきみ君とはもうお別れ、ということになってしまうかもしれません。きみ君と一緒に暮らしたくても、ローンなどの問題もあり、きみ君自身も、「おれのために生きないでよ」と言います。きみ君の母も、家を売って引っ越すことに賛成で、息子を亡くした悲しみがあるのに、歌には「新しい人生を歩き出してちょうだいね」とやさしく言ってくれるのです。
下心ありの営業マン、きみ君、義母に「新しい人生を」と言われても、数ヶ月やそこらでそんなにすぐ切り替えられるもの!? 歌が憂鬱になっていくのもよくわかります。気を紛らわすように料理人のアルバイトに精を出す歌ですが、バイト仲間の真山に、ふと思いついて「明日から新しい人生を始められるとしたら、何をしますか?」と聞いてみます。
妄想炸裂の真山の夢はおいといて、「この先の人生の目標がわかんないんですよね……」と心情を吐露する歌。真山に「小さい頃の夢とかないの?」と聞かれて思い出したのが、住宅街にある小さなレストラン。落ち込んだ時に「こんな店があったらいいな」とよく思い描いていたのでした。
「そんな店なら私も行きたいし、それをこれから歌の目標にすれば!!」と真山に言われた時は、「そんな簡単に……」とつぶやいたのですが、そこであるひらめきがあり、帰宅後、急に荷造りに励みだします。そんな様子を見守るきみ君は、「遂に一歩踏み出す決意を……」と頷きますが、どこか寂しそうでもあります。
でも、歌の「新しい人生」は、家を売って気持ちを切り替えることではなく、この家でレストランを始めることだったのです。そう決意した歌の笑顔は澄み切っていました。担当している物件が売れる(あわよくば、歌を彼女にもできるかも)と思っていた営業マンは、「女一人で店なんか」と突然の翻意に反論しますが、歌はひとりではありません。
こうして歌の小さい頃の夢を実現させ、幽霊のきみ君とこの家にいることを選んだ歌ですが、自宅をレストランにするのってそう簡単じゃないようです。保健所の許可を得るためには、いろんな基準を満たさねばならず、改装も必要です。また、やっとオープンしたはいいけど、常連さんをどう増やすかというのも悩みのひとつ。そこにきみ君の会社の一癖ありそうな後輩が店を訪れたりと、物語は広がっていきます。
歌が作る看板メニューのオムライスはとても美味しそうで、近所にこんなアットホームな店があったら通いまくるのに! きみ君は幽霊なので力仕事はできませんが、精神的な支えになってくれています。姿は見えなくても、きみ君という自分を見守ってくれる確かな存在によって、歌はようやく彼女らしい「新しい人生」を踏み出すことができたようです。もしかしたらこの先、きみ君の死と本当に向き合う時が来るかもしれませんが、レストランという守りたいものを自分で創った歌がどう変化していくのかも気になります。温もりのある素敵な物語です。
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『きみとレストラン』
鶴ゆみか 講談社
澄田 歌。夫のきみ君と一緒に、建てたばかりのマイホームで新しい生活が始まる…はずだったのに、そのきみ君は事故で亡くなってしまった。周りのみんなは「まだ若いし、『新しい人生』に進むべき」と背中を押してくれるけど、今はそんなこと考えられない。だって、まだきみ君はこの家にいるんだもん――。
最愛の人を失った女性が、「レストランを開く」という夢を追うことを思い出し、夫(の幽霊)と手を取り合って「新しい人生」を切り拓く! 笑って泣けるおうちレストラン開業ストーリー!
(電子版のみ)
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