人並みに恋をしてきたはずなのに気づくといつも一人。そう振り返る、独身のまま40歳を迎えたカフェの女店長が主人公の『初恋の世界』。その9巻が3月10日に発売されました。スタイリッシュな絵柄で「大人の恋愛漫画の名手」と呼ばれる西炯子さん。本作では、ミモレ世代の「初恋」を描いています。

甘い少女漫画のようで、ほろ苦い味わいが残る作品


『初恋の世界』は、甘い少女漫画のように見えて、40歳独身女性のほろ苦い切なさが強く感じられる作品です。

年下男性との恋がはじまりそうな甘い予感が漂っているのに、読み進めていくとほろ苦い印象の方が強く感じられます。それは、「結婚せず一人でいることがきつくなってきたけど、新しい恋愛に踏み出すにはためらいがある」という40歳独身女性の感情が、淡々と実感をこめて描かれているから。

『初恋の世界』 ©️西炯子/小学館

こだわりのあるカフェチェーン店の店長として働く小松薫(こまつかおる)。独身のまま40歳になり、「人生半分終わっちゃったのか…」としみじみ思っていると、転勤を命じられて故郷に戻ることに。

 

配属となった故郷での店舗に出向くと、偉そうな態度のバイトの男が店を勝手に仕切って、業態まで変えていた。今度からはわたしがここの店長になるのに…。

 

店長として、こだわりのあるコーヒーを提供する店のカラーを死守したい薫に対し、集客第一、来る客層に合わせてメニューを改変してしまったバイトの男。しかも10歳も年下。

ペースを乱されながらも、彼が言っていることには一理あり、だんだんと気になる存在になってきます。

 

そして、薫は学生時代に同人誌を描いてつるんでいた友人三人と再会します。昔と変わらず、楽しい時間を過ごすのですが、実は大人になった彼女たちはそれぞれ秘密を持っていました。

 

・教員の修子は独身。薫と同じ境遇のようだが、実は公にできない恋をしている
・富子はバツイチ。同僚の竹下くんを狙っているが、彼は別の人にずっと恋している
・香織は専業主婦で2児の母。不自由ない生活を楽しんでいるように見えるけれど…


三人のうちの一人、薫と同じ独身の修子が問いかける言葉が心に残ります。

「人生を捧げても構わないと思うほどの恋愛を小松くんはしたことある?」

 

そんなのほとんどの人が出逢わないで終わるんじゃないか。そう薫は思うのですが、これまで自分がしてきた恋愛を振り返ってみると…

わたしって実は『初恋』を経験していなかったのかも?


年下の男に心を揺さぶられながらも、これまでの恋がうまくいかなかった理由と向き合って、今の自分の気持ちを徐々に自覚していく薫。

そして、同級生の友人たちがそれぞれ隠し持っている秘密が少しずつ明らかになってゆきます。

「好き」という感情だけでは、もう突き進めなくなっている大人の女性たちのほろ苦い切なさが描かれている『初恋の世界』を味わってみませんか?

西炯子

大人の恋愛漫画の名手として知られる。代表作『娚の一生』や『お父さん、チビがいなくなりました』『STAY~ああ今年の夏も何もなかったわ〜』は実写映画化された。現在は『月刊flowers』で『初恋の世界』を連載中。


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『初恋の世界』
著者:西 炯子
小学館 フラワーコミックスα

カフェの店長として働く小松薫(こまつかおる)。独身のまま40歳を迎えた翌日、転勤を命じられて地元に戻ることに。地元では高校時代の友人たちと再会するが、新たな勤務先の店は、謎のバイトの男に仕切られていた!人生の折り返し点で、恋と仕事の転機が訪れた薫と、その友人たちの「初恋」の物語。


構成/大槻由実子