人の顔の特徴をAI(人工知能)が分析することで、性的指向や支持政党までも判別できるという米国の研究が波紋を呼んでいます。顔の特徴だけで人格を判断することは不可能というのがこれまでの標準的な見解であり、この研究に対しては「トンデモ科学」との批判も出ているようです。
一方で、顔つきや表情などから、相手についてある程度までなら推測できるという話は、(科学的な根拠はなかったものの)人と会うことを仕事にしている人の間では共通認識でもありました。これまで曖昧なままにされていた話が、AIの発展によって顕在化してしまったわけですが、これは非常にやっかいな問題といってよいでしょう。
スタンフォード大学の研究者によると、顔認識アルゴリズムを使って100万人の顔を分析したところ、分析対象者がリベラルなのか保守なのかという違いについて約7割の確率で判別できたそうです。
これはAIが多数の顔を見て学習した結果ですから、どのような理由で判断したのか明確な基準は分かりません。ただ、政治的傾向によって、カメラにまっすぐに顔を向けているかどうか、嫌悪の表情が見られるかといった部分が影響した可能性があるとのことです。
AIをビジネスに応用するという視点においては、7割の正答率というのは成績が良い部類には入りませんが、個人の性格や政治思想がある程度までなら推測できるということになると、政治的、社会的には話が変わってきます。
実はこの研究者は、AIによる分析で性的な指向も推定できるという論文を出しています。仮にAIによって政治思想や性的指向が推測できるということになると、危険な事態をもたらす可能性があります。誰でも思い浮かぶのはやはりナチスドイツでしょう。
ナチスドイツは特定の民族を弾圧しましたが、その矛先は同性愛者など性的マイノリティにも及びました。人権を無視する人たちは、基本的に決め付けで物事を進めますから、正答率が低いAIであっても、政治的には悪用されてしまう可能性が十分にあるわけです。
これまでは、人の表情を見ただけでは、その人の内面は分からないというのが科学的な常識であり、表面だけで人を判断してはいけないというのは社会道徳でもありました。仮にAIで人の思想を推定できるということになると、この技術を社会としてどう扱うのか、大きな問題に発展するのは間違いありません。
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