一方で、表情や顔つきから相手の考え方を想像するという行為は、私たちも日常的に行っています。人材の採用やマネジメントなどに携わるビジネスパーソンの中には、実際に仕事に応用している人もいるというのが現実です。

 

筆者の知人の企業経営者は、人の採用にあたって、経歴など十分に吟味した上でという前提条件付きですが、最終的に候補者の顔つきや表情を重視すると語っていました。実際、長年会っていなかった人と再会すると、顔つきが大きく変わっていてビックリすることがありますが、話をよく聞くと、仕事の環境が変化していたというのはよくあるケースです。

 

AIによって思想を分析できるというこの研究結果が正しかった場合、私たちが無意識的に行っていた心の中の作業をシステムが代行し、明示的に結果が示されるということになります。確かに両者は同じ行為かもしれませんが、個人が心の中で実践するものと、システムが機械的に実施するものとでは社会的な意味がまるで違ってきます。

私たちの知らないところで顔認識技術の応用は着々と進んでおり、個人のプライバシーは丸裸にされつつあります。心の中の問題までAIが立ち入るということになると、さらに社会は息苦しいものとなってしまうでしょう。

この研究は、あくまでひとつの研究でしかありませんから、今、もっとも大事なのは、本当にAIで思想を分析できるのか検証を進めることでしょう。

完全に結論が得られていない段階で、トンデモ科学と決めつけたり、差別を助長するので研究を禁止するといった措置を取っても根本的には何の解決にもなりませんし、逆に不完全な研究成果をもとに実務に応用することもあってはなりません。

まずはこうした表情分析が本当に可能なのか検証を行い、仮に実現可能という結論が得られた場合、その技術が悪用されないよう、社会的な合理を得ていく必要がありそうです。

テクノロジーが進化すると、必ず負の面が顕在化してきますが、これはいつの時代でも同じ事です。人間は常にテクノロジーがもたらす弊害についてうまく対処し、プラスの面を活用することで文明を発達させてきました。AIの分野においても、きっと同じ解決策を得ることができるはずです。

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