街に溢れる地域住民同士のコラボレーション
鎌倉だけでなく、お隣の逗子にもコミュニティを育む文化が根付いています。2010年に始まった逗子海岸映画祭は、逗子をホームグラウンドとした写真家や音楽家などのクリエーター集団「CINEMA CARAVAN」がプロデュースしていますが、彼らの拠点となっているのがミニシアターやカフェが併設されたカルチャースポット「CINEMA AMIGO」です。ここは地域住民と移住組のハブ的な場としても機能していて、人と人とのつながりが生まれることも多いと言います。
鎌倉、逗子、葉山にはクリエイティブ系の人が多く住んでいることもあり、横のつながりで意気投合した人たちがすぐに何かを形にするということも珍しくありません。実際に暮らしていて、街にはコラボの産物が溢れているなぁと感じます。
たとえば昨年のゴールデンウィークには、外出自粛で楽しみを失った地域住民のために、30店舗近い鎌倉の飲食店とアーティストがテイクアウトセット「Enjoy Home Project」を販売。ただのお弁当ではなく、複数店舗の商品が入ったステイホームを楽しむためのコラボセットで、ルームフレグランスとワインと手作り燻製セット、藍染体験セットとお弁当など、ちょっとしたギフトのような品々が作られました。さらに鎌倉駅から離れたエリアでは、一括でデリバリーを実施。おうちにいながら複数店舗の商品を一度に受け取れるという、地域限定ネットショッピングのようなプロジェクトが行われたのです。
実はこれ、鎌倉やその周辺地域に暮らす人たちが運営する協働事業「鎌倉まちごとオーケストラ」によるもの。顔の見える付き合いが町内に広がることで、最終的には災害時にも役立つ物流機能を育もうという試みです。これ以降も、ローカルを強くすることを目的に、鎌倉とその近隣地域での地域自給率・循環率を高め、企業や地域のニーズに対応できるシステム作りやプロジェクトを行っています。
コミュニティ作りにもひと役買う地域の角打ち
このエリアには、街の商店ひとつ取っても人と人とのつながりを生みやすい昔ながらの文化が残っているような気がします。コロナの影響で今は中断されていますが、由比ガ浜で100年以上続く老舗の鈴木屋酒店が提供する土日限定のナチュールワイン角打ちをはじめ、駅周辺の高崎屋本店や相模屋酒店、材木座海岸近くの萬屋酒店など、店のお酒を店頭でそのまま楽しめる角打ちを行う酒屋が数多く存在します。それだけでなく、昨年オープンした無印良品の新店舗「Café&Meal MUJI ホテルメトロポリタン鎌倉」や鎌倉で生まれ育った店主が営む「朝食屋コバカバ」など、あらゆる店で地域を盛り上げるイベントが定期的に行われています。
こんな鎌倉のコミュニティに筆者が魅せられたのは、既存の考えを打ち破るユニークな取り組みが日々生まれているところ。物事をすぐに形にできる地域コミュニティというのは、活気があって、その地に住んでいるだけで何だか元気になれるものです。
風の時代に求められる情報収集や人脈、ボーダレスな関係性。風の時代に即した暮らし方を始める第一歩は、これまでの地域コミュニティを少しだけ広げてみることなのかもしれません。災害も多く、コロナ禍という特殊な状況に置かれた今だからこそ、自分の住む街に改めて興味を持ち、地域というコミュニティに目を向ける良い機会なのではないでしょうか。
構成/小泉なつみ
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