美智子さまの「生前の遺言」国民の負担にならないお墓と葬儀とは?

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その一方で、政府が主催する「大喪の礼」については、内閣が判断するとして、国に判断をゆだねました。

2018年、美智子さまのお誕生日のポートレート。写真/宮内庁提供

この日、会見した風岡典之宮内庁長官は、
「両陛下はかねて昭和天皇陵などがある武蔵陵墓地には用地の余裕がないことを懸念し、自身の陵の規模を縮小し、近世以降の皇室の伝統である土葬ではなく、火葬が望ましいとの考えを示していました。宮内庁は昨年4月、こうした両陛下の意向を発表し、約一年半かけて検討してきました」
と伝えました。

 

昨年4月の「生前の遺言」会見からさらに検討を重ねてきた経過の公表だったのです。

天皇陛下(上皇さま)のご意向で合葬も検討されましたが、美智子さまから「おそれ多く、ご遠慮したい」との気持ちが示されたため見送られたことも公にされました。

宮内庁が葬送について調整するにあたっては、皇室典範に沿って検討されました。あまり一般の人たちの目に触れることはありませんが、日本の法律の中には「皇室典範」という皇室について定めたものがあるのです。

現在の「皇室典範」は、1947年(昭和23年)に日本国憲法とともに制定されました。第二次世界大戦後、「国民主権・象徴天皇制」へと移行した日本国憲法のもとで、皇位の継承や皇族の範囲などについて、全5章37条にわたって定められています。

天皇の葬送に関しては、「皇室典範」第25条に「天皇が崩じたときは、大喪の礼を行う」と定められていますが、具体的な内容は規定されていません。
そのため、宮内庁は昭和天皇の葬儀と同じように、戦後廃止されていた旧皇室葬儀令をベースに検討を進めてきたといいます。

陵についても、「皇室典範」第27条に「天皇、皇后、太皇太后及び皇太后を葬る所をりょう、その他の皇族を葬る所をとし、……」とありますが、それ以外の規定はないことから、同じく戦後廃止された旧皇室陵墓令を参考としました。

皇室の祭祀や儀礼は大切に守り、国民に影響ある部分のみ変える


火葬があたりまえになっている一般の国民にとって、逆に「土葬」「陵(墳丘墓)」が検討課題に挙がっていることを不思議に思うのが普通の感覚でしょう。
しかし、ここで大切なのは、陛下(上皇さま)と美智子さまはすべての皇室儀礼を変えようとしているのではない、ということです。
むしろ皇室のみにしかできない祭祀や儀礼は、非常に重要なこととして大切に行ってきました。

昭和天皇の崩御と翌年の即位に関する儀式、大嘗祭だいじょうさいなど天皇の代替わりの儀式、皇太子の立太子に関する儀式など、数年間は皇室の儀式が多数行われました。
これらは大昔の平安時代を思わせるようであり、一般の国民からはかけ離れたものでした。

幕末の天皇について研究した藤田さとる氏によると、天皇だけができる朝廷祭祀や儀礼は、天皇が天皇であるための根源であり天皇権威の核心であるといいます。

「……(昭和天皇の葬送では)神々しくも威圧的な、そして私たちから隔絶した権威ある存在という『神聖(性)な天皇』というイメージが示された。それらの儀式・神事は、一人の生身の人間が、天皇という特別な権威を身につけるうえで必要なプロセスであった。現在の皇室は、その『神聖な天皇』と『開かれた皇室』がないまぜになっている……」(藤田覚著/講談社学術文庫より抜粋)

陛下(上皇さま)と美智子さまは、皇室の祭祀や儀礼を守りつつ、国民に影響を与える部分のみ、整えていこうとされたのです。

文/高木香織
ヘッダー写真/JMPA/光文社

 

 

『美智子さま いのちの旅 ―未来へ―』
講談社 価格1650円(税込)
渡邉みどり著

30年に渡る、上皇さまと美智子さまの最後の大仕事「終い方」に向けたあゆみをまとめた一冊。昭和天皇崩御と喪儀、即位といった一連の儀式のためにかかる莫大な経費と国民の自粛による経済への大きな影響に驚いた美智子さまは、終い方に向けての取り組みを始めました。家族会議を開き、国会を動かして法改正し、墓陵のかたちを決め、上皇さまの生前退位を実現したのです。著者は、日本テレビ放送網のプロデューサーとして美智子さまのご成婚パレードを取材し、昭和天皇の大喪の礼では総責任者として陣頭指揮をとった皇室ジャーナリストの渡邉みどりさん。国民にとっても学べることが多い内容です。

第1回「美智子さまの終い方「30年前、即位の時の異例の発言」とは?」>>

第3回「30年の年月を経て...上皇陛下と美智子さま「生前退位の日」一礼に込めた想い」>>
第4回「陛下と美智子さまが自ら準備する葬儀とお墓「400年ぶりの火葬で国民に負担なく」」>>
第5回「美智子さまの断捨離「元は2トントラック100台分...膨大な思い出の品の整理」>>

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