最近、世の中で話題になることが増えてきた女性の「生理」。またひとつ注目すべき新たなアプローチが加わりました。
日本を代表するトップアスリートが競技の垣根を超えて学生アスリートを支援する『一般社団法人 スポーツを止めるな』から、女子特有の身体の問題に向き合う『1252プロジェクト』が立ち上げられたのです。

発起人は、元競泳日本代表の伊藤華英さん。
このプロジェクトは、女子アスリートはもちろん、純粋にスポーツを楽しむすべての女性が、「よりよい生理とのつき合い方を実現するための情報プラットフォーム」を目指しているといいます。

伊藤さん自身も、現役時代に生理による不調に振り回されてきた経験があり、「もっと生理について知識があればよかった」と振り返ります。
伊藤さんが競技人生で直面した生理における問題や、女子アスリートを取り巻くスポーツ界の現状と課題についてお話を伺いました。

伊藤華英 元競泳日本代表 /スポーツ健康科学博士 /一般社団法人スポーツを止めるな理事 ベビースイミングから水泳を始め、2000年日本選手権に15歳で初めて出場。競泳選手として、2001年世界選手権(福岡)から女子背泳ぎ選手として注目された。2008年女子100m背泳ぎ日本記録を樹立し、初めてオリンピック代表選手に。怪我により、2009年に背泳ぎから自由形に転向。自由形の日本代表選手として2012年ロンドンオリンピックまで日本競泳界に貢献する。2012年10月に現役引退後、ピラティスの資格取得とともに、スポーツの発展・価値向上のために活動中。


生理と重なり悔しい結果を残した
北京オリンピック


伊藤さんが生理について初めてコラムを書いたのは、2017年。
きっかけは、ある中国の選手が生理の不調について語った記事を目にしたことでした。

 

「それまで、生理は公の場で話題にするものではないと思っていました。
毎月来るのが当然のもので“不調”という認識すらありませんでしたが、生理期間中にパフォーマンスが落ちることはわかっていたので、あれは“不調”と捉えてよいことだったのか、と。
また、多くの女子選手が生理と向き合いながら競技を行っていることを知り、自分の経験もシェアしてみようという気になったのです」

コラムの内容は、競技人生の中でも大きなインパクトを残した夢の舞台での出来事について。悲願の初出場を勝ち取った2008年の北京オリンピックが、あろうことか生理期間と重なってしまったのです。

2008年、北京五輪に出場した伊藤さん。写真/アフロ

「水泳競技は8日間行われますが、その全日程がぴったり生理の予定とぶつかってしまいました。焦って対策を練り始めたのが4月の選考会の後で、すでに7月の本番までわずか3ヶ月。
コーチと婦人科の先生と協議した結果、苦肉の策としてピルを飲んで生理日をずらすことになりましたが、この対処法が上手くいかなかったのです。

ホルモン量の多いピルだったからか、私の身体が影響を受けやすかったのか、普段はできないニキビができ、体重も3kg以上増えてしまって。
ベスト体重から100g増えても水の感覚が変わってしまう世界で、3kgの増加は致命的でした」

当時は23歳。引退後、あらためて婦人科で生理について教わる機会があり、ピルには多くの種類があり、自分に合うものを探すことが肝心だと学んだそう。
ただし、副作用が少ないとされる低用量ピルでさえ、身体が慣れるまでに3ヶ月はかかるのです。

「生理やピルについてあらためて勉強した結果、きちんと時間をかけて準備できれば、生理日をずらす以外にも複数の選択肢があることを知りました。
本来は、それらの知識を備えた上で自分に合った方法を選び、コーチやドクター、スタッフ等と情報共有できるとよかったのです。

北京オリンピックの件で一番問題だったのは、ピルを飲んだことではなく、生理に関して無知だったこと。何の知識も持たないまま、直前まで何の対策も打てていなかったことだったのです」
 

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【写真】体調の変化でもベストを尽くした北京五輪
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