自らもDVサバイバーでシングルマザーのソーシャルライター・松本愛さんが、DV当事者の「声」を丹念に拾い上げ、日本のジェンダー意識の遅れの実態をレポートします。公私ともにパートナーだった男性と授かり婚したBさん。しかし結婚後、夫の自己破産歴と、極度のマザコンであることが発覚。酒乱で過干渉の義母との同居生活でうつ状態になってしまったBさんは夫に義母との別居を提案しますが、それがきっかけで夫が豹変してしまい……。

※個人の特定を避けるためエピソードには脚色を加えている場合もあります

 


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夫がひと足早く離婚調停を申し立てた理由


夫から離婚届を突きつけられ、さらには「親権が欲しければ養育費を諦めろ」という内容の念書を取られたBさんは、言われるがまま離婚届を役所に提出しに行ったものの、夫から出されていた不受理届けにより離婚が成立しなかったというホラーな状況に陥っていました。意味不明な行動にむき出しの悪意、夫への恐怖に「もうあの家には帰らない」と決意したBさんでしたが、それはまだ地獄の始まりに過ぎませんでした。

そう、Aさんのケースの最後に「裁判所に申し立てていたら結果は変わっていたのでは?」という問い立てをした通り、実はここからがBさんのケースの本題。

離婚に相手の同意が得られない場合、まずは離婚調停を申し立て、調停で話し合う必要があります。そこでBさんは家を出て1週間ほどで離婚調停を申し立てたのですが、また気持ちの悪いことに夫からの申し立ての方が一足早く、便宜上、夫が申立人となり初回の調停の期日が決まってしまいました。

離婚したくないと言われてどうしようと思っていたBさんはひとまず安心したのも束の間、さらにその後、夫はBさんが子を違法に連れ去ったと主張して「子の引渡し審判」「保全処分(=審判前の仮処分)」「監護者指定審判」の3つを追加で申し立て、それら全ての申し立てが一つの離婚調停の期日にまとめられてしまいました。

通常この3つの申し立ては、離婚後、親権者として養育していた子どもを親権者でない方の親が連れ去ってしまったというような場合に、その子どもを取り戻すために申し立てるものです。離婚前であっても、両親が別居中で子どもの引渡しについての話し合いができない場合、この手続きを利用することができます。

 

しかし、裁判所のHPにも “子の引き渡しは子どもにとって生活の場所が変わることを意味しますから、生活の場の変化が子の健全な成長に悪影響を与えないよう留意する必要があります。調停手続では、子どもの年齢、性別、性格、就学の有無、生活環境等を考えて、子どもに精神的な負担をかけることのないように十分配慮して、子どもの意向を尊重した取決めができるように、話合いが進められます”と明記されている通り、基本は主に育児を担当していた方の親が主たる監護者として子どもと同居するのが筋。そしてもちろんBさんが主たる監護者です。

しかし、相手が審判を申し立ててきている以上、応じないわけにはいかず、また、万が一審判で負けたら子どもを一人で世話できない相手に親権を渡すことになる。そんな状況に追い込まれているとBさんが知ったのは、なんと調停期日の2週間前、裁判所からの通知が届いたことによってでした。

 
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