スウェーデンのアパレルメーカー「H&M」は今後、新疆ウイグル産の綿花を使用しないことを表明。中国のネットやSNS上では反発が上がり、不買運動にも発展している。写真:AP/アフロ

ウイグル族が強制労働させられているとする問題で、各企業の対応が話題になっています。

私は新聞社の証券部記者をしていた2007〜8年ごろ、SRI(社会的責任投資)やコーポレートガバナンスの領域の取材をしていました。当時の日本でSRIは「儲からない」というイメージが強く、ESGに配慮した投資というのはほんの一部のエコファンドなどがやっているだけで、大多数の投資家の関心事ではなかったという印象です。

※編集部注:ESG=環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取った言葉

 

当時のCSR(企業の社会的責任)は分厚い報告書を作ることが目的化していないか? というようなものも多く、かえって紙の無駄遣いで環境に悪いのではと思えたことも。実際に何らかの社会的な活動をしているとしても、週末に社員が植林などの活動に勤しんでいるとか、株主優待で障害者の施設で作ったものを配っている等の活動が中心で、企業にとって事業そのものの根幹にかかわるような取り組みが意識されている事例は少なかったのです。

この私の肌実感とぴったり合う説明を、株式会社ニューラルの夫馬賢治社長が著書『ESG思考』でしていました。夫馬さんはリーマンショック以降、こうした動きは大きく変わったと言います。持続可能性を無視した利益追求が世界的な損失につながり、金融機関を中心に単一的な価値観の持ち主だけで暴走することの危険性が認識されたために、取締役会の多様性などにも投資家側が目配りをするようになった、と。

 

2006年に設定された国連責任投資原則(PRI)への署名はリーマンショック後に大幅に増え、現在欧米では、利益とESGがトレードオフになると考えられてきた「オールド資本主義」から、ESGに配慮することこそが利益につながる「ニュー資本主義」にシフトしている、と夫馬さんは説明します。

この分野で日本の動きは欧米に比べれば数年遅れているとはいえど、2017年には世界最大規模の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESGを指標に組み込むなどの動きが出てきました。GPIFと言えば、私が取材していた時代にも関係者から「GPIFさえ動けば」「GPIFが動きでもしない限り…」と言及されていたので、隔世の感があります。

 
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