フリーアナウンサー馬場典子による「言葉」にまつわるコラム新連載。知っておくと便利な言葉、使い方に気をつけたい言葉など、気持ちが伝わる“言葉づかい”のヒントをお届けします。
 

見て理解しやすい言葉と聞いてわかる言葉は違う


生放送中に新しい情報が飛び込んできたときなど、アナウンサーは下読みをせず「初見」で読むことがあります。
どんな原稿も技術でカバーしてこそプロなのですが、実際には、初見でも内容がすんなり頭に入ってスラスラ読める原稿もあれば、初見では内容が掴みづらい原稿や、どこか噛みやすく読みづらい原稿もあるのです。前者は自分が上手くなったと勘違いしてしまったり、後者は実力不足を思い知らされたり……。

「書き言葉」と「話し言葉」――「五輪」か「オリンピック」かプロの使い分けとは?_img0
子供のころから、文字を読むと眉間にシワが寄ってしまいます(笑)。

なぜ、そんな違いが出てくるのか。

いくつかポイントがあるのですが、一つは「書き言葉」か「話し言葉」かの違いです。視覚的に捉えやすい書き言葉と、耳で聞いて分かりやすい話し言葉は、同じとは限りません。
例えば国会答弁が分かりづらいのは、書き言葉をそのまま読んでいることも一因でしょう。(もっと本質的な問題がある気もしますが……)
 

「五輪担当相」は「オリンピック担当大臣」に


ちなみにアナウンサーが新聞を声に出して読む練習は、発声発音、原稿読みとともに、書き言葉を話し言葉に同時変換するトレーニングも兼ねています。
「五輪担当相」を例にとると、「五輪」は、戦前のオリンピック招致の際、文字数を節約するため新聞記者によって考えられた表記なので、基本的に「オリンピック」と読みます。「相」も、音にすると省庁の「省」と区別しにくいため、「大臣」に。耳で聞いたときの情報不足や引っかかりや誤解を防いで、伝わりやすくしています。

そして、「リズム」もポイントの一つ。いろは歌をほとんどの人が流暢に言えるのは、日本語の基本、七五調のリズムだからです。リズムが調うだけで読みやすくなるのです。
私も職業柄か、声に出した時の語感やリズムに気をつけながら文章を綴ります。……歌ったり踊ったりのリズム感は自信がないのですが(笑)。

話し言葉に向いているものの代表格は、大和言葉。音そのものに意味があるというだけあって響きが柔らかいので、優しく、分かりやすく、親しみやすい、という性格を持っています。
接待を「おもてなし」。ご好意やご厚意を「心尽くし」。恐縮ですを「恐れ入ります」。承知しましたを「かしこまりました」。失礼しますを「お暇します」と言い換えるだけで、物腰が柔らかい印象になります。
「徹子の部屋」で黒柳徹子さんが仰っていて、辞書で調べた言葉は「お髪(おぐし)」。当時小学生だった私は、大人の階段を登った心持ちでした。
たおやかな大和言葉を使いこなせたら、お願いごとやビジネスシーンなどで、柔よく剛を制することができるかもしれませんね。

一方でテレビの番組名は、強く印象づけるために「ザ」など濁点のついたインパクトのある音を意識していることも少なくありません。
硬軟それぞれ長所があって、ダジャレ好きとして見てみると、同じ読みで違う意味がいくつもある書き言葉もまた魅力的です。


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