5月から開催された全仏オープン、女子1回戦での大坂なおみ選手。写真:Abaca/アフロ

女子テニスの大坂なおみ選手が、うつ症状に苦しんでいたことを明らかにしました。基本的に時代は多様性を認める方向に流れていますから、大坂選手の告白も前向きに受け止めた人が多いようですし、筆者も彼女が正直に自身について語ったことは基本的に良いことだと思っています。ただ、スポーツ界にこうした動きが本格的に波及すれば、ビジネスとしてのあり方は大きく変わるかもしれません。

 

大坂選手は2021年5月、精神的負担が大きいとして全仏オープンで記者会見に応じない方針を表明し、実際に会見に出なかったことから罰金を科されました。四大大会の主催者も連名で「今後も会見に応じない場合には、四大大会の出場停止もあり得る」という厳しいスタンスを表明しています。

大坂選手は主催者による声明発表の後、ツイッターを更新し「怒りは理解の欠如。変化は人を不快にする」とのメッセージを投稿。さらにインスタグラムで「さよなら、これでせいせいした」と書かれたミュージシャンのジャケット写真を投稿するなど、主催者側と全面的に争うかに見えました。

ところが大坂選手は翌日になってツイッターに声明をアップ。これまで「うつ症状」に苦しんでいたと告白し、全仏オープンを棄権することを明らかにしました。

誠実な人柄で知られていた大坂選手が、なぜ頑なに主催者と対立するのか不思議に思われていましたが、うつ症状に苦しんでいたという告白を聞いて腑に落ちた人も多かったことでしょう。

一部からは、「最初にうつ症状に関して説明してくれていれば……」といった意見も出ていますが、トップアスリートにとってメンタルで不調を抱えているというのは、なかなか外部に言えることではありません。順序が逆になってしまったのも致し方ないことかもしれません。

テニスに限らずスポーツ界は、記者会見を通じたファンとのコミュニケーションを重視しており、記者会見は必須というスタンスに変化はなさそうです。一方で、自身の弱い部分もさらけ出した大坂選手には、共感の声が多く寄せられています。

冒頭にも述べましたが、世の中は多様な価値観を認める方向性にありますし、アスリートも1人の人間ですから、完璧とは限りません。その意味では大坂選手が思いきって告白したことには意味がありますし、周囲もあたたかく見守ってあげた方がよいでしょう。

大坂選手の告白をきっかけに、自身について正直に語るアスリートが増えてくる可能性がありますが、こうした流れが定着した場合、スポーツ(特にスポーツ・ビジネス)のあり方が大きく変わるかもしれません。

これまでの時代は良くも悪くも、消費者はスポーツ選手に対して「強さ」や「完璧さ」を求めていました。あらゆるプレッシャーをはねのけ、強靱な肉体とメンタルを持っている選び抜かれた人たちだと(勝手に)イメージしているからこそ、多くのスポンサーが広告価値があると判断し、大金を出していたわけです。

 
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