6月24日からNetflixにて配信がスタートする『全裸監督』シーズン2。昭和のバブル期にアダルトビデオ業界を席巻し、“AVの帝王”と呼ばれた村西とおるを、山田孝之が演じ大好評を博したドラマの続編となります。
シリーズ1は、ドン底営業マンが世紀のAV監督になるまで
物語を簡単にお伝えいたしますと……、会社をクビになったその日に妻の浮気を知り、ズタボロになった村西とおるは、バーでトシというチンピラ(満島真之介)と出会う。トシを通じて「エロは金になる」と知り、アダルトビデオの製作を始めた村西だが、業界を牛耳っている池沢(石橋凌)や汚職警官・武井(リリー・フランキー)に邪魔されてなかなかビジネスが軌道に乗らない。そんな中、性的に抑圧された環境で生きてきた女子大生・黒木香(森田望智)と出会い、自身が男優となって“ハメ撮り”をおこなう。そうして村西は、仲間たちと共にAV業界のタブーに挑戦していくのだが……というものです。
このドラマ、とにかく演者も構成も近年稀に見るほどクオリティが高く、私も非常に面白く見させていただきました。とはいえ、アダルトビデオとは女性の性搾取の象徴のような存在。そのAV界の発展に大きな役割を担った人物を、いわゆる“いい者”的な視点で描いているドラマってどうなんだろう? そんな一抹の抵抗感を持ちながら見たのも事実です。実際ドラマ内では、村西とおるの波乱万丈な人生を痛快に描いている一方で、親に隠れてAVに出演していた女優の悲惨な末路や、薬漬けにされた女性たちが出演させられている裏ビデオの存在など、AV産業の恐ろしい現実も浮き彫りにしていました。
フェミニズムをクリアした理由は?
それでもなぜ『全裸監督』は、1ミリだにと言っていいほど炎上しなかったのでしょうか? それどころか、続編まで作られることになるほどの大きな支持を得た……。もちろんその理由は、Netflixの資金力、そして山田孝之や、伝説のワキ毛AV女優・黒木香を演じた森田望智など、役者たちの演技の素晴らしさが大きかったと思います。
が、決してそれだけではないはず。そこには物語の持つ何か大きなメッセージ性のようなものがあり、それが今の令和に生きる視聴者の心にも強く響いたからではないかと思うのです。私は『全裸監督』を否定することよりも、むしろその惹きつけたものが何なのか、という方が知りたくなった。そこで徹底的に、『全裸監督』を視聴した人の感想コメントを読み込んでみることにしました。そこから見えてきたものとは……、それはひと言で言ってしまうと、“本音”だったのではないかと思います。
実話を生ぬるく表現しなかった挑戦に喝采
コメントの中でとくに多かったのは、「地上波では無理な攻めた過激さ」を評価したものでした。たとえば……、
「配信系ドラマだからこそできる過激さ。俳優も演技派が揃いすぎて、生々しかった。その分、そんな時代もあったんだな~と知れて面白かった」
「前半はけっこうエロいシーンが多くて焦った。ポルノだからあまりいいことはしていないのだが、リアルだし、美術製作とか手が込んでいて魅了された」
「エロに貪欲な村西とおるワールド全開。なかなかギリギリを攻めていて良いと思いましたァ~」
等々。つまり、実話を生ぬるくボカすことなくリアルに描いた、その攻めの姿勢を視聴者は高く評価したようです。
では視聴者は、その過激さ、リアルさの向こうに何を見ていたのでしょうか? 多くのコメントを分析してみると、それは“人間の本性”だったのではないかと思うのです。
「このドラマは客観的に見ると卑猥で下品で笑ってしまうほどくだらないかもしれない。でもこのドラマには人間の性に対するありのままの姿と自由な欲望、そして人間の本性があります。地上波じゃ絶対できない内容だからこそ、熱い思いが込められている」
「エロい、いやらしい、という変な目で見るというより、黒木香を演じた女優の覚悟がすごい……という驚きのほうが大きかった」
「裏切り、ヤクザ、ドラッグ、AV、投獄……、アンダーグラウンドの全てが生々しく描かれているが、これがほぼ実話っていうのがまたすごい」etc.
つまり、『全裸監督』は人間の本性をありのままに描いた――。性という欲望に狂乱する人たちの姿を、生々しいまでにリアルに描いた――。ひどくシンプルですが、それこそがドラマが予想を覆しての大ヒットにつながった要因ではないかと感じたのです。
昨今はとにかく炎上時代ですから、この“ありのまま”に描くことが恐ろしくと言っていいほど難しい。いくらそれが真実だとしても、社会的に良くないとされるものはとことんバッシングされ、時には放送中止に追い込まれてしまうことも。それゆえ作り手は危険を避け、少しでも炎上しそうな言葉、シーンは先読みして描かなかったり、突っ込まれにくいソフトな描写に差し替えてしまったりします。だけどそれでは、視る者には何も刺さらない……。
『全裸監督』がやったのはごく基本的なことで、良い役者で、描きたいものを包み隠さず情熱をもって作った、それだけだったのだと思います。おためごかしもなく、嘘くさい綺麗ごとでぼかすこともなく。その様は、奇しくもこのドラマの中で村西が主張し続けていた「人のありのままの姿を撮って何がわいせつなんですか?」というメッセージと重なるものがある気がしました。
SNS時代に人間の本性に触れることのできた作品
一億総監視時代なんて言われる今は、それゆえ誰もが本音をさらけ出すことを憚り、また人々の本音を聞くこともできず、すべてが表面をなぞるように進んでいく……。村西とおるは、まさにそんな現代の閉塞感を打ち破ってくれる存在に見えたのかもしれません。
シーズン2でも村西は、政界進出を目指して「全日本ナイス党」を結党したり、衛星放送におけるアダルトビデオチャンネルを開始したりと、変わらず炎上上等なアイディアで社会に挑戦状を突きつけていくよう。その姿をボカすことなくありのままに描く限り、きっと、彼の生き様は再び大きな支持を得ることと思います。
私もおそらく、シーズン2の配信が始まれば時を置かずして見てしまうでしょう。そして、多いに楽しんでしまうことでしょう。ただし、ちゃんとAV産業に抵抗感を覚えながら……ということは怠らないようにしたいと思っております。
構成/藤本容子
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