職種別や企業による対策とは、例えば次のようなこと。
・ホワイトカラー職は女性を補助労働者として処遇せず、幹部にも積極的に登用すること。
・大企業は女性を総合職と一般職に区分することをやめるか、総合職の女性を大幅に増やすこと。(選択は女性の任意とする)
・ブルーカラー職と販売職は、男性の育児休業の取得強化(2019年の取得率は7.48%)を図るなどの働き方改革を進めること。さらに最低賃金のアップ策によって、女性の賃金増を図ること。
もちろん、こうした社会的支援や人事的政策に期待するだけでなく、男性・女性にかかわらず一人ひとりの意識変化も大切なポイントであることは間違いないでしょう。2019年時点、日本は「専業主婦世帯」が582万世帯、それに対し「共働き世帯」が1245万世帯に。夫は外で働いて稼ぎ、妻は家事・育児を担うといった“性別役割分担”の意識が多様化しつつあることは言うまでもありません。
首尾一貫して、女性の労働力向上を訴える橘木さんですが、M字型カーブの是正については、働く女性が“足踏みを続けるもどかしさ”を表すかのようなデータを引用して締め括ります。
「一つだけ危惧がある。それは一部の女性(高学歴女性も含めて)に専業主婦志向が少し高まりつつあることである(2020年のソニー生命調べでは29.8%)。もっとも、2020年では少し減少したので、これに関しては不確定性がある。一部の女性の性別役割分担意識への回帰か、女性支援策が進まないことへの苛立ちかもしれない」
一億総中流社会が過去のものとなった今、私たちはどこへ歩を進めるべきなのかーー。問題を直視し、より良い未来のかたちを考えるためのヒントが、本書には詰まっています。
訳者プロフィール
橘木俊詔(たちばなき・としあき)さん:1943年、兵庫県生まれ。小樽商科大学、大阪大学大学院を経て、ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了。京都大学教授、同志社大学教授を歴任。現在、京都女子大学客員教授。仏米英独で研究職・教員職を経験。元日本経済学会会長。専門は経済学、特に労働経済学。『日本の経済格差』(岩波新書/エコノミスト賞受賞)、『離婚の経済学』(講談社現代新書/迫田さやか氏との共著)ほか、著書多数。
『日本の構造 50の統計データで読む国のかたち』
著者:橘木俊詔 講談社 990円(税込)
様々な統計データを読み解くことで、日本の今を総点検できる一冊! 日本経済の健康診断、財政にまつわる分析から、高収入家庭と低収入家庭の教育格差、親の所得と子の所得の関係性など、家庭に関わる数字もふんだんに掲載。複雑化する現代社会を考えるために必要な、多角的な視点を与えてくれる内容です。
構成/金澤英恵
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