アルツハイマー病疑いの診察で別の症状が判明


私の外来を受診した、70代の女性の患者さん。物忘れが最近急にひどくなり、自宅近くのクリニックでアルツハイマー病の疑いと言われて、アリセプトという薬の内服を始めました。

なんでも、ランドリーに洗濯物を入れっぱなしにしてしまったり、水道の蛇口を閉め忘れたりということが繰り返しあったそうです。その後、食欲がなくなり、体重も落ち、疲れやすくなって、自分で家事をするような自信もなくなってしまいました。

買い物などは近所の友人の助けを借り、家事にはお手伝いさんを雇うようになりました。自宅から出られない日々が続き、抑うつ症状も出現したため、再度クリニックを受診すると、うつ病の薬を処方されました。

認知症=アルツハイマー病は誤解!原因によっては治療も可能【医師が解説】_img0
 

日に日に悪化していく本人の様子を見かねた友人が、別の病院を受診した方が良いと勧め、私の外来を受診されました。

外来を受診された際、確かに頬が痩せこけていて、ここ数カ月はご飯があまり摂れていない様子がすぐに伝わってきました。診察をしてみると、血圧が少し高いことに気がつきました。高血圧があるのか、本人や同伴した友人に尋ねましたが、これまでクリニックを受診して、血圧が高いと指摘されたことはなかったとのこと。

また、足にはむくみも見られました。最近、靴が履きづらくなっていたという自覚はあったようでしたが、むくみ自体には気がついていなかったようです。

 

一つの病気から複数の症状が起こる可能性も


認知機能を評価するためのMoCAという検査を行ってみると、患者さんのスコアは30点満点で20点を下回るようなスコアでした。MoCAは22~25点がボーダーラインと考えられるため、このスコアの結果「認知症がある可能性が高い」と考えることができます。しかし、これがアルツハイマー病なのかと言われれば、それはまた違う次元の話です。

別に人のことを疑ってみているわけではないですが、思考の偏りを避けるため、私は目の前の患者さんがこれまで別の医師から何らかの診断を受けていても、信じないようにしています。

アルツハイマー病という言葉を聞いてしまうと、ついその診断名に引っ張られてしまいますが、一度その診断の可能性を捨て、もう一度自分の耳で患者さんの声を聞き、目で見て、そもそも診断が正しいのかを検証し直すのです。

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もしアルツハイマーだったとしたら、最近出現した高血圧や足のむくみについては何か別の病気が同時進行で起きてきたのだろうか? あるいは、もしかすると認知症の症状、血圧の上昇や足のむくみは全て同じ一つの病気が原因で起こっているのではないだろうか? そんな疑問が私の頭の中を駆け巡りました。