自宅で転倒する人がいたら、体の異常だけではなく、自宅環境に目を向けることも大切です。
以前の章でも扱いましたが、たった一度の転倒が人生を狂わせてしまうこともあります。「あの一度の転倒をきっかけに老化が一気に進んでしまった」、「命を落とす結果となった」という人までいるのです。
病院で熱心に体を調べたにもかかわらず何も異常が見つからず、原因は自宅にあったなんていうことも決して稀なことではありません。
以前、なかなか治らない腰痛のおばあちゃんの話も共有しました。腰痛のおばあちゃんは台所の高さが低いせいで、腰を曲げて料理をしていたことが腰痛の原因になっていました。腰の手術ではなく、台所の手術こそが腰痛の根本的治療となったのです。
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自宅環境の見直しが転倒を防ぐ
転倒に対して、自宅環境への介入の有効性を示した研究というのもあります。ここで紹介したいのは、ニュージーランドで行われた研究で、「Lancet」と呼ばれる権威ある医学雑誌に掲載されています(参考文献1)。
この研究では、自宅環境の見直しが行われ、自宅の整備を受ける人と、そのような介入が行われない人の2グループにランダムに割り付けられ、それぞれ3年間の経過観察が行われています。そして、自宅で転んで怪我をする人の割合にどのぐらいの違いが出るのかが評価されました。
自宅環境の整備を受けた人では、以下のような介入を受けたことが報告されています。
・外階段と内階段の手すりの取り付け
・外階段の不安定な箇所の修理
・自宅内の夜間の灯りの調整
・浴室とトイレの手すりの取り付け
・外灯の確認や取り付け
・カーペットやマットの浮き上がりの調整
・滑りにくいバスマットの取り付け
一方、介入が行われないグループには、本当に何の介入も行われていません。この2つのグループで比較をしてみると、介入が行われたグループでは、自宅の転倒に起因したけがが26%減少して見られたことが報告されています。
この研究で行われた自宅の整備には、一人当たり平均で830ドルほどかかったそうです。それを聞くと、それだけお金をかける価値があるのかと思われるかもしれません。
しかし、よく考えてみると、転倒による骨折などのけがの治療でかかる医療費、その後のけがの後遺症での自宅療養や、働けなくなることによる収入減など、けがをすればコストが多くかかってきます。コストやけがの減少率を考慮すると、自宅環境の見直しは結果としてコストパフォーマンスが良かったということも合わせて報告されています。
このように、短期的にはお金がかかってしまうように感じられても、長期的には十分取り戻せる可能性が高く、むしろお金をかけたほうが良いということもあります。
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