最近、「フェムテック」という言葉をよく耳にするようになりました。これは、女性(フェム)という意味の接頭語と、技術(テクノロジー)を組み合わせた造語で、女性向けのいろいろな技術やモノやコトなどのサービスを指しています。そして、これまでデリケートゾーンと呼ばれていた腟周辺を「フェムゾーン」と呼ぶようにもなり、注目が集まっているのです。
今回は、フェムゾーン(膣と外陰)の大切さと、今日からできるセルフケアを女性泌尿器科専門医の関口由紀先生に教えてもらいました。

 


デリケートゾーンは全然デリケートじゃなかった!?


デリケートゾーンとはどんなイメージでしょう? 一般的には女性器まわり、だいたいパンティで隠れる周辺のことを、ざっくりデリケートゾーンと呼んでいました。
しかし、長年、女性器にまつわる悩みを抱えている患者さんたちと向き合ってきた関口先生はずっと「デリケートゾーン」という表現に違和感を覚えていたと言います。

 

「デリケートとは、大事にすべき、繊細という意味合いなので、自分で触ってはいけない場所というイメージを日本女性に刷り込んできたと思います。ですが、腟と外陰は、健康に保つために、自分で見て触ってケアをするべき部位なのです」(関口先生)

確かに、腟と外陰は、女性の生理・出産・排尿・排便・性交にかかわる重要な部分で、24時間365日、雨風にさらされていると言ってもいいようなゾーン。本来、とても丈夫な部分なのですが、加齢や、たとえ若くてもストレスで女性ホルモンが低下すると不具合が起きてくるのです。

「膣と外陰を一生長持ちさせるためにはケアが必要。自分でちゃんと見て、触って、お手入れしてほしいのです。デリケートだからと思い込んでアンタッチャブルにしていると、生活の質を下げるような悩みを抱えてしまうことに……。だからこそ、デリケートではなくフェムゾーンと積極的に啓蒙しているのです」(関口先生)
 

性器だけで、性別を区別できない


フェムゾーンが膣と外陰を指すなら、女性器のほうがわかりやすくていいのではないかという疑問を関口先生にぶつけると――

「女性器は膣と外陰ですが、性が多様化している今、女性器があるから女性、男性器があるから男性とは言えません。また、性分化の過程で性器が完全に女性化や男性化しない場合がありますし、脳の性分化も人それぞれ。さらに性別は、身体の性と精神の性、さらに性嗜好という3つの要素で判定されるようになってきて、グラデーションがあります。ですから、腟と外陰があるから、女性であるとは言えません。
また、女性器という言葉は、男性向けのセックスを匂わす場合に多く用いられている傾向があるので、日本では女性向けに、女性器をデリケートゾーンとソフトに言い表してきたという事情があります。そこでいろいろ考えて、 ”フェムテック”という響きが、ジェンダー差別を感じさせない印象があると、フェムゾーンにいきついたのです」(関口先生)。

実際に、「フェムゾーン」と呼び方を変えたことで、関口先生のクリニックでは患者さんたちは、膣と外陰のケアに以前より積極的になったと言います。


フェムゾーンケアはなぜ必要なの?


繰り返しになりますが、フェムゾーンは膣と外陰で、加齢やストレスで女性ホルモンが低下することで不具合が起きてきます。「腟がモゾモゾする」、「外陰部がむずがゆい」、「おしっこが漏れる」、「セックスすると痛い」などに悩やまされるようになってしまうのです。

「これらは今までは 女性ならではの単なる老化現象として放置されていたのですが、フェムゾーンの痛み・かゆみなどは、女性ホルモンの減少で引き起こされる「病気」であるとわかってきました。少し前は「萎縮性腟炎」「老人性腟炎」という病名でしたが、2014年に「GSM(ジーエスエム)=Genitourinary syndrome of menopause」(閉経による性器尿路症候群)という名前がついたのです。つまり、中高年女性のフェムゾーンにまつわる悩みはケアや治療すれば治る病気なのです」(関口先生)

しかも、驚くことに50代以降の女性の2人に1人が、このGSMという病気を抱えていると言われています。

 「GSM」の主な症状は以下の3つ。 
・膣と外陰の不快感(ムズムズ・かゆみ・痛み)
・尿のトラブル(頻尿・尿もれ・再発性膀胱炎)
・セックスのトラブル(痛みや出血など) 

 
「思い当たる症状があっても、心配しないでください。GSMはセルフケアをすれば進行が食い止められますし、治療すれば改善される可能性が高い疾患です」(関口先生)

そこで、さっそく今日からはじめられるフェムゾーンケアを関口先生に教えてもらいました。
 

ルーティーンにしたいフェムゾーンケア3つ


フェムゾーンを健康に保つためのケアは、難しくありません。スキンケアと同じイメージで、気軽にはじめてみましょう。

その1 清潔に保ち、しっかり保湿
専用の洗浄剤や石鹸などを泡立てて、大陰唇、小陰唇のひだをやさしく洗います。腟の中は、石鹸では洗ってはいけません。腟も外陰もごしごしこするのはNGです。洗浄剤はきれいに洗い流すこと。
フェムゾーンを清潔にした後は、身近で手に入りやすい保湿剤、クリーム、ジェル、オイルなど、お気に入りのものを外陰部の表面に1、2滴塗って潤いを与えます。乾燥が気になる場合はクリームとオイルを混ぜてもいいでしょう。

その2 膣と外陰をやさしくマッサージ
筋肉をほぐすのが目的。リラックスできる姿勢で、股間に手が届く体勢をとります。植物性オイル(セサミオイル・スイートアーモンドオイルなど)を手に取り、外陰や肛門まわりにオイルをやさしく塗りこみます。肛門を下に見て、会陰部の内側、右側3時から5時、左側7時から9時の間をなでるように指を入れてマッサージしていきます。痛みが出ない方は少し圧を加えて、各30秒程度行います。

その3 骨盤底筋トレーニング
姿勢は寝ていても、座っていても、立っていてもOK! 息を吐きながら膣の中を引き込むように締めて10秒キープし、吸いながら緩めます。1セット5〜10回で1日2〜5セット。

「まずは自分のフェムゾーンを見て触って、毎日のケア続けてみてください。1〜2ヵ月で、かなりのトラブルは改善されるはずです。それでも改善しない場合は、お近くの女性専門の医療機関へ足を運ぶことをおすすめします。局所への女性ホルモン補充などさまざま治療方法があります」(関口先生)

密かに抱えていたフェムゾーンの悩みが解決できれば、生活の質はあがっていくはずです。

関口 由紀先生 女性医療クリニックLUNAグループ

女性泌尿器科専門医。日本泌尿機能学会指導医・専門医。日本東洋医学会指導医・専門医。日本性機能学会専門医。日本排尿機能学会専門医。経営学修士(MBA)。NPO法人女性医療ネットワーク理事、一般社団法人日本フェムテック協会理事。
「女性の身体は、全身的に診ていく必要がある」と、婦人科、女性泌尿器科、内科、漢方内科、乳腺科、皮膚科、美容皮膚科、などを揃えた女性医療クリニックLUNAグループを展開中。「自分の体は、自分で守る」の理念の元、女性の生き方に関しても情報発信中心。
YouTube るなクリニックch


取材・文/熊本美加

 


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