今回、五輪で初めて、トランスジェンダーを公表したアスリートが出場しました。この報道を見て、高校時代の思い出と複雑な気持ちが駆け巡りました。

ニュージーランド代表のローレル・ハバード選手はトランスジェンダーを公表、2日に行われたウエイトリフティング女子87キロ超級に出場した。写真:AP/アフロ

私はコロナ禍での五輪開催には反対でしたが、スポーツはもともとやるのも観るのも好きな方です。クラブチームに所属していたわけでもなく、ただ単に好きだったというだけの話ですが、長い間、自分の最大のアイデンティティは「サッカー少女」でした。

ただし、サッカーでは、二度ほど、強烈に自分の能力のなさを知らしめられたことがあります。

 

サッカーを毎日するようになったのは、小学生のころ。女の子たちのアニメの“ごっこ遊び”についていけなかった私は教室にいるのがつらく、小さい時から父や兄とボールを蹴っていたこともあり、昼休みは毎日男の子たちとサッカーをするようになりました。

その後、私以外にも何人か女の子も入って、昼休みだけではなく、朝も放課後も、本当に毎日のようにサッカーをしていました。小学校の校庭では学年ごとに同時進行で試合をしていたりするので、ボールが飛び交います。1年生のときに上級生とぶつかって膝をこっぴどく擦りむいたときの傷はいまだに残っています。

小学校のときは男子と一緒に楽しくサッカーをしていたものの、サッカー教室の門をたたくには少しシャイすぎた私は結局中学ではあまりサッカーをプレイする機会がないまま、バドミントン部に入り熱中し、最後の1年はキャプテンも務めました。

でも男子サッカー部の練習や試合をちょくちょく観に行っては、クラスメートや小学生のときには一緒にボールを蹴っていた仲間たちを応援しながら、どうして自分はあの中にいないんだろうと寂しさと悔しさを覚えていました。

だから、高校に入ってまずしたことは、女子サッカー部を作ること。5人集めたら同好会が作れると聞いて、きっかり5人の仲間を集めて男子サッカー部の顧問を尋ねました。サッカー部の顧問の先生は、今の男子サッカー部の名前をサッカークラブにして、男子部門と女子部門を作ればいい、と提案してくれました。

ありがたくその提案に乗って、迎えた練習初日。まずは男子が普段やっている練習に、女子数名で参加してみることに。ほぼ3年のブランクがあったことに加え、高校生になっていた私は、そこで男子との圧倒的な体格差にぶつかります。

ボールをドリブルしながら校庭を横切って帰って来る、という基本的なことをするだけで、まず歩幅が全然違って、ついていけない。小学生のときは普通に混ざっていたのに……。私以外の経験者の女子も同じような状態で、「初心者です」と挨拶していた男子の新入部員とも大きな差が開いてしまいます。

小中時代にクラブチームでゴリゴリ鍛錬していれば違ったのかもしれませんが、11人サッカーのフィールドで私達が男子に混ざることはほぼ無理だと、私たちも顧問もすぐにわかりました。

今回の五輪で、男性から女性に性転換をした選手が初めて女子競技に出場するという報道を見たときに、真っ先に思い出したのは、この時のことです。体格が違う相手と競うことがどういうことか。トランスジェンダーの選手の権利が保障されるのは大事なこと、と思う反面で、それで勝てなくなる女性選手がいるとしたら、その悔しい想いにも共感します。

でも、体格の問題は男女だけの問題なのか。

 
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