東京オリンピックの開催が迫る2021年7月にコロナ罹患した、4歳の男女の双子と10カ月の乳飲み児3人の母で育休中の餡蜜桃子さん。乳飲み児の次男を「付き添い人」として入院した病院で遭遇した、医師や看護師さんの応対が優しすぎて忘れかけていた「私はコロナ患者」という現実をまざまざと突きつけてくるその乗り物とは一体……!? 餡蜜さんの1カ月にわたるコロナとの激闘の記録を8日連続でお届けします。

※本記事は2021年7月時点のケースです。行政の指針や対応が現在と異なる部分があります

餡蜜桃子さんのInstagramより。素敵写真と3児の育児についての生活感溢れるコメントとのギャップが魅力

 


宇多田ヒカルもびっくり!看護師さんのディスタンスの詰め方


ゴォー、ゴォー、という不穏な音をたて、白いビニールカバーにすっぽりと覆われた車椅子が私の目の前に到着しました。イメージとしてはベビーカーの雨カバーといった感じでしょうか。ベビーカーのそれとの違いは外からも中からも完全に見えないようになっている点でしょう。

「これに乗って病棟に移りますからね」。看護師さんがにっこりと笑って乗車を促しました。重厚なカバーを掻き分けなんとか着席し、赤子を膝に乗せます。換気対策なのか背面に扇風機のようなものが取り付けられゴォー、ゴォーと轟音を轟かします。

全く何も見えないと思っていましたが、かなり低い位置に申し訳程度に小さな窓がついていて外の様子が少しだけ見えました。幸い休日で外来患者もいない状況でしたが、この乗り物が前を通ったら思わず親指を隠したくなるくらいの威力があるだろうな、と、思わず首をうなだれました。

乗り物は院内をかなりグルグルと進んでいきます。ここは昔からある大学病院。増床に増床を重ね、真新しい棟と昭和中期からあるであろうかなり古びた棟とが並んでいます。なんなら私、この病院で産まれました。まさかこんな理由で舞い戻ってくるとは……(涙)。

きっと一番古い病棟なんだろうな、ちょっと怖いな……と気分が沈みます。10分近くかけて院内を行脚し(何故そんなに時間がかかるのかというとエレベーターに誰か乗っていると同乗出来ないため何回も見送りました)、そんなに古くはなさそうな病棟に到着しました。

コロナ病棟、虐げられていないのか。小綺麗な病室に通され安堵しました。私のベッドの真横に高い柵がついた子ども用のベッドが置かれています。今日私と次男が入院するためにわざわざ用意してくださったのだなと思いを馳せます。ずり這いをはじめたばかりの次男は広々としたベッドの中でずりずり動き回って嬉しそうでした。

しばらくすると看護師さんがやってきて入院のルールや設備の使い方などを丁寧に説明してくださいました。「赤ちゃんもいるし、もっとこうしたほうが使いやすいですよね?」など色々と考えてくださり本当に有り難くて有り難くて。

そして検温や血中酸素濃度の計測など一通りの処置をしてくれたのですが、防護服を着ているとは言え、距離がとても近い!!! 宇多田ヒカルもびっくりのディスタンスの詰め方でした。わ、私コロナですよ? そんなに近くに来て大丈夫? と思わずこちらが心配になるくらい普通に接してくれます。そして陰性ではあるものの濃厚接触者である次男のことも可愛い可愛いと抱っこしてくれたり、とっても可愛がってくれました。

コロナ病棟での勤務なんて絶対避けたいに決まっている。この病気が流行り出してもう1年半が経ちます。医療従事者の皆さんは疲弊しきっているであろうに。そんな様子はおくびにも出さず、至って普通に明るく接してくださるのです。ちなみにこの看護師さんだけでなく、その後に出会うどの看護師さんも先生も同じでした。もうこの時点で「皆さんに余計な心配とお手間を取らせて申し訳ございません!!!」と土下座したい気持ちに駆られました。

食事も普通に美味しかったし、息子の月齢にあった離乳食まで出していただいてもう本当に頭が上がりません。今まで体験したことのないことが始まることに終始緊張状態でしたが、どうやら安心して過ごせそうだと胸を撫でおろしました。この日は疲れたのでシャワーは諦め、そのまま眠ることにしました。